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世界4ヵ国のアニメーションスタジオで働いて経験した、5つの違い。

作成者: フランソワ・リー|2020/09/04 1:00:00

この10年間、私は、韓国、フランス、カナダ、アメリカのアニメーション制作現場で働いてきました。 手描き2D、デジタル2D、CGで、TVシリーズでも、長編映画でも、製作ジャンルを問わず様々なプロジェクトに参加させていただきました。

主な作品は、『スペクタキュラー・スパイダーマン(手描き2D TVシリーズ)』『ミラキュラス レディバグ&シャノワール』『リトルプリンス~星の王子様と私~』そして『フェリシーと夢のトゥシューズ(CG長編映画)』等のプロジェクトに参加しました。

今回の記事では、私が各国の様々なプロジェクトで発見した5つの違いについてお伝えしたいと思います。

私は各国のアニメーション業界で働く中で、カルチャーの壁によって様々な苦労に直面してきました。ですので、私の経験が少しでも日本のスタジオやアニメーターさんの役に立てばと思い(特に、海外で働いてみたい方のお役に立てればと思い)このブログを書こうと思います。

1. 北米の労働時間は柔軟で、その分各個人が仕事の責任を負う

▶︎アジア

私の最初のキャリアは韓国で始まりました。当時は午前10時にスタジオに出社し、夜10時に退勤していました。

朝10時にスタジオに着いても、既にスタッフが出社していることが多かったですし、 そして夜10時に帰宅する際には、まだ仕事をしている人も多く、私が最後に会社を出ることはありませんでした。

監督に挨拶をしてから退勤していましたが、監督が次の日まで徹夜して同じ席に座っていた姿をよく目にしました。

▶︎ヨーロッパ

フランスでは通常、朝10時にスタジオに入り、午後7時頃に退勤していました。

また、チームのメンバーの中には午前11時に出社して、午後8時頃に退勤する人もいました。私自身は徹夜で仕事をする時もありましたが、思い返してみるとそれは恐らく、過去の韓国での経験に影響を受けたからだと思います。フランスのアニメーション業界では徹夜作業は珍しいです。

▶︎北米

カナダのスタジオでは当初、朝9時に出勤して夜7時頃に退勤していました。

でも、午後6時1分過ぎると、スタッフはちゃっかり退勤して、スタジオにはだれもいないことに気づきました! なので、私は現地の習慣に適応して、夜6時に退勤するようにして、自分の自由時間を持てるようになりました。

またカナダでは、幼児の子育てをするスタッフは「朝8時から夕方5時まで」だったり、「朝7時から夕方4時まで」という時間帯で勤務している方も多かったです。

アメリカでは、通常朝10時頃にスタジオに入り、夜7時頃に帰っていました。

でも正直に言うと、作業量によって、柔軟に勤務時間を調整できました。朝5時に退社する日があれば、午後3時に退社する日もありました。

カナダと同様、アメリカも非常に融通が利く文化だと思いました。 部長や取締役チームは朝8時頃にオフィスに入り、早く出勤するアーティストや遅く出社するアニメーターもいました。また、ほとんどの人が車で出勤するため、ロスの週末の大渋滞を避けるためスタッフ全員が金曜日の午後3時に退勤していました。

まとめると、最も勤務時間の融通がきいたのがアメリカ時代でした。これは、アメリカでは、従業員が勤務時間に厳格に従うことよりも、適切な時間の中で良質な業務を提供することを求められているからだと思います。様々な理由で時間の融通が必要な場合、それは各個人の責任として扱われます。

このマネジメント方式のデメリットは、担当者全員が同時に打ち合わせに参加できるという保証がないということでした。しかし一方で、あらかじめ予約した時間に準備された状態で挑むミーティングは、効果的でもありました。

2. 迂闊なフィードバックは厳禁!?国によって受け取り方が違うので、要注意!

▶︎アジア

韓国では直属の上司からのみフィードバックを貰っていました。

▶︎ヨーロッパ

フランスでは、スタジオの従業員がみな、自分の意見を言うのが習慣だったようです。

秘書、インターン、会計士、ITチーム、配管工、そして隣人の甥までもが、私のデスクを通り過ぎる際に意見していく場面に、たびたび遭遇しました。

▶︎北米

カナダとアメリカは、フィードバックを与えることに関してかなり慎重でした。

アーティストたちは、特別依頼されない限りフィードバックを提供しません。依頼なく意見を述べることはないのです。

また、別部署のアーティストたちがフィードバックし合うことは、決して歓迎されませんでした。 それは相手の仕事に対する侮辱であり不適切なこととして認識される恐れがあるからです。

3. 各国で異なるリーダーシップの考え方

▶︎アジア

韓国では、私の上司はメンター的な存在でした。 私に対してとても厳格でしたが、細部まで関心を持ち、私が質の良い仕事をできるよう学び、改善していくための指導をして頂きました。

▶︎ヨーロッパ

フランスでは、ほとんどのスーパーバイザー(上司)が、アーティストとして優れた方でした。 しかし、彼らは必ずしもメンターの役割を担っていたとは思いません。スタジオは彼らに、アニメーターの作業の点検を任された「お兄さん」のように役割を期待していたようです。スーパーバイザーというよりも、どちらかと言うと彼らは、各々の仕事に集中している印象でした。

▶︎北米

カナダとアメリカのスーパーバイザーは、チームマネージャーと近い役割を担っていました。彼らは、その部署において最高のアーティストである必要はありません。しかし、チームの納品物が品質基準を満たすようにリーダーシップの才能を発揮せねばなりません。 状況に応じて仕事を手伝ったり、もっと簡単な仕事へ切り替えるように対応してくれます。

私の個人的な経験から見て、ヨーロッパや北米のスーパーバイザー達は、部下の仕事の評価(特に「上手ではない」という話)を面と向かってしません。 彼らはむしろラインプロデューサー(制作進行)やマネージャーに報告するケースが多いです。

一方、アジアでは、上司は、率直な意見を出すことが多かったです。 しかし、少なくともアジアでは、スキル向上のために上司からの指導を受けることは、良い経験でした。

4. アーティスト(アニメーター)のスキルも、地域によって違う!

これは本当に難しいポイントです。

ここでは、私がこれまで関わってきた各プロジェクトの予算、形式やスケジュールの経験をもとに、完全に主観的な意見として述べてみます。

▶︎アジア

アジアのスタジオで働いた際には、どのアーティストたちも同質な技術を持っていました。 つまり、上手い人と下手な人の技術格差が大きくないということです。スーパーバイザー達はメンター的な関わり方をして、チームの他のメンバーに作業が大幅に遅れている人がいないか確認しながら進行していました。

▶︎ヨーロッパ

各アーティストが熟練したスキルを持っていて、それぞれのスキルが最適に活用されているチームが組織されている、という印象を受けました。

▶︎北米

最もアーティスト達の転職が多い土地かもしれません。雇い主からすれば、履歴書の内容や過去の経験に関係なく、才能あるアーティストを雇う可能性も、性格の悪いアーティストを雇う可能性もあります。

ですから、北米のアーティストを迎え入れる時には、バックグラウンドチェックや同僚たちの推薦を重視するスタジオも珍しくありません。

5. 国によって異なる、業務時間外の社員交流

こちら、前述と同様、私の経験を基に、あくまでも、個人的な、主観的な意見です。

▶︎アジア

私がアジアのスタジオで働いた頃は、スーパーバイザーや先輩達が、チームとして一緒に集まって楽しい時間を過ごすよう努力していました。職場以外ではマンツーマンではなく、常に集団として過ごしました。上司と一緒に食事をする時以外は、スタッフとは仕事以外で会う機会は有りませんでした。

また、 アジアでは、先輩後輩の文化の影響で、当時の私は、先輩や上司から食事を奢られる機会が多くありました。

▶︎ヨーロッパ

フランスのスタジオに所属していた頃は、多くの同僚と親しくなりました。ヨーロッパでは、 お互いの共通の趣味等で、スタジオでグループが形成され、社外でも頻繁に集まりました。

個人的には、過去の同僚が私の最初の結婚の証人として参加してくれました。(その後、私は再婚しましたが、今でも仲の良い友達です!笑)

▶︎北米

アメリカでは、職場以外で同僚と会う機会はほぼありませんでした。 もしあるとすれば、打ち合わせ等の仕事に関することや、営業や製作中のプロジェクトに関するミーティングでした。 アメリカの同僚たちと社外で会ったことは、ほとんどありません。

まとめ

繰り返しになりますが、このブログは、私の過去の経験に基づいた観察と分析の結果です。経験に基づく主観的なものなので、これが全てであると誤解されないようにお願いします。

私は、異なる文化や環境で働いてきた中で、たくさんの困難を経験しました。その理由のひとつは、相手とのコミュニケーションにおいて適切な文化的理解ができていなかったからです。

フランスではじめて、テレビシリーズの監督補佐としてキャリアをスタートした頃を思い出します。 当時、製作現場で様々な困難に直面していた私は、両親に勧められ、当時の上司やスタジオマネージャーにどのようにスタッフと対応すべきか、相談しようとランチの時間を頂きました。

食事の間、その上司は全く私の相談に乗ってくれずに、有効なアドバイスを貰えないまま時間は過ぎてしまいました。会計の際、アジア的な発想で、相談時間の感謝の気持ちとして私が食事を払うことを提案しました。

その時驚くべきことに、彼らは私が彼らの給料のたった3分の1しか稼いでいないという事実を知っていながら、私の申し出を喜んで受け入れてしまったのでした。

文化的な違いや解釈によって、私はこのような多くの苦しい経験をしました。

振り返ってみれば私は、囲碁のルールしか知らないまま将棋をプレーしていた瞬間が多かったとのではないか思います。