世界中のアニメーション制作スタジオが今、新しい制作環境への移行を課題としています。
オーストラリアの最新子ども向けTVアニメシリーズ『ザ・ストレンジ・ショア(日本未公開)』は、12フィールド・アニメーションがFlashからToon BoomのソフトHarmonyへ移行して制作したはじめての作品です。多くのスタジオが怯みがちな制作方法の大転換。その転換が12フィールド・アニメーションにとって、むしろ得るものが多いものとなったそうです。
オーストラリアのブリスベンを拠点とするルド・スタジオと、メルボルンを拠点とする12フィールド・アニメーションは、メディア・ワールド・ピクチャーズと提携し、共同制作でいまオーストラリアにアニメ・ブームを呼び込んでいます。ルド・スタジオは、オーストラリアでも大人気の子ども向けアニメ『ブルーイ』を制作し、今回の『ザ・ストレンジ・ショア』では、さらに上の年齢の8〜12歳の子どもを対象に12フィールド・アニメーションと組んで制作を行いました。
オーストラリアの子ども向けチャンネルABC MEにて、10月31日から放送開始されたこのアニメでは、戦士に憧れるチャーリーとピアスの2人組が、幽霊の女の子キューと共に、モンスター退治の名人ヘルシングから与えられるお手伝い仕事(ショア)をこなしながら修行をします。
『ザ・ストレンジ・ショア』は、デザインや絵コンテ、アニメーションまで全てを通してオーストラリア国内の12フィールド・アニメーションで行われました。1シーズン26話、各話11分の作品の、デザインからアニメーション制作終了までにおよそ95週間が費やされ、5,000以上のシーン、400以上のリグ、500以上のプロップ、3,000以上の背景という大きなボリュームの制作が行われました。
今回Toon Boomは、この作品の制作責任者兼クリエイターのデレイ・ピアソン氏(ルド・スタジオ)と、ディレクターのスコット・V・ボッシュ氏(12フィールド・アニメーション)にインタビューを行い、Toon BoomのHarmonyを導入した今回の制作についてお話をお伺いしました。
Source: Ludo Studio
ー モンスター退治とお手伝い仕事※を繫げるアイデアはとてもユニークですね。ファンタジーを子どもたちの実生活に当てはめるという、こうした考えは、どこから来たんでしょうか。(※タイトルにあるショアとは、主に欧米で子ども達の家事の手伝いを意味します。)
デレイ・ピアソン氏:今回のシリーズ作品は、子ども達に好きになってもらいたくて、子どもたちに関係する物語でありながら、かつ彼らの意欲を掻き立てるものにもしたかったのです。自分たちが8〜12歳くらいだった子どもの頃って、兄や姉の世代向けに作られた番組が好きだったりしたんですよね。なので、このシリーズはいかにも「子ども向け」のような番組にしたくなかったんです。そのために制作全般を通して、キャラクターやトーン、コメディの要素は、常に重要なものとして捉えました。
私たちが好きだった番組って、壮大なコンセプトを持ちつつも、自分たちの実生活に関係した何かがあったと思うのです。あの『Xファイル』も、モルダーとスカリーが、お役所仕事らしい退屈な資料に追われていたりしたでしょう。
『ザ・ストレンジ・ショア』の若い視聴者にとって、そのお役所仕事が、キャラクター達がこなすお手伝い仕事で、やらなくちゃいけない仕事を通して責任感を学び、大人になっていく。内容がいかにヘンテコでばかばかしくても、視聴者やキャラクター達は、いつも常に現実的な事、いわゆるお手伝い仕事に引き戻されるんです。
ー この作品をどうやって売り込んだのですか。
デレイ・ピアソン氏:私たちの低年齢向け番組『ブルーイ』のように、アジアン・アニメーション・サミットでメディア・ワールドのコリン・サウス氏とABCチルドレン放送のクリス・ローズ氏の二人のプロデューサーにまず売り込みました。オーストラリアの業界は当時、成長初期の困難に面している段階で、『ザ・ストレンジ・ショア』はしばらくの間、開発地獄に陥ってしまいました。そこまで深刻な事態にならなかったんですが、その苦難の間に、キャラクターやストーリー、構成などをスコットと共に磨き上げたんです。スコットが作り上げたようなこんな企画の番組は他にはけしてないと本当に思います。怖くてカッコよくて、そしてちょっとだけ不思議という絶妙なバランスが、この番組の視聴者にとって最高のものだと思います。
Source: Ludo Studio
ー キャラクターのデザイン、特にモンスター達はとてもクリエイティブですが、この番組を作るにあたり影響を受けた番組や映画などあるのでしょうか。
スコット・V・ボッシュ氏:特に何かを参考にしたというよりも、デレイと共に自分たちが求める全体的な見た目や雰囲気について話し合いながら作りました。ただ、スティーブン・キング原作の70年代ホラー映画『死霊伝説』や80年代の冒険映画『グーニーズ』については語り合いましたね!私たち二人共、この二つの映画のトーンの感じはすごく欲しかったんですよ。不思議な世界に対する強い友情という。
見た目も今っぽいものでありながら、他のアニメ番組とは違うものにしたかったんです。アーティスティックで、手描きらしい、かといってトガり過ぎない感じの雰囲気に。登場する様々な場所ごとに、違う色彩構成にしたり、光の使い方を変えたりして、独特の世界観を作りたかったんです。背景のペンの質感に合わせて、キャラクターのラインを色々変えたりして試してみたりもしました。
ー 絵コンテの段階では、Storyboard Proを使用されたのですか。
スコット・V・ボッシュ氏:番組作り全般を通して、絵コンテにはStoryboard Proを使いました。Storyboard Proは素早く使えるし、修正や更新が簡単です。絵コンテ部はすでにStoryboard Proに慣れ親しんでいたので、新しいToon Boomソフトの制作工程に合わせやすかったです。
ー Harmonyを使った制作は今回が初めてだそうですが、チーム内で、Toon Boomのソフトの使い方のトレーニングなどだいぶ必要でしたでしょうか。
スコット・V・ボッシュ氏:この制作のために、12フィールド・アニメーションのスタジオ全体で、アドビのFlashからToon Boom のHarmonyに制作ソフトを移行しました。学校の授業でToon Boomのソフトに少し触れていた若手のスタッフたちとアニメーション・ディレクターをのぞいては、スタジオ内では誰もこのソフトを使ったことがありませんでした。
Toon Boomとフィルム・ビクトリアのサポートで、カナダとオーストラリアから二人のトレーナーが来てくれて2コースに渡って集中トレーニングを行ってもらいました。一つのコースはデザインチーム、もう一つのコースはアニメーションチーム向けです。この講義は実に意義があって、スタッフの採用後研修にもしたんですが、それによってマネージャーも何人か本当に才能ある若手のアーティストを、制作前に採用する事ができたようです。
制作へ入る段階でトレーナーに来てもらって、本当によかったです。実制作に関わる疑問が解決しました。スタジオの既存のやり方からスキルを高めるためにも、またこのプロジェクトが持つ独特のリギングやアニメーションのスタイルを作り出すためにも、この初期のトレーニングは本当に重要なものだったと思います。
ー 今回の『ザ・ストレンジ・ショア』の制作を効率的にしたのは、Harmonyのどういった機能や特性でしょうか。
スコット・V・ボッシュ氏:アニメーションにToon Boomのソフトを導入したことで、より早く、よりよいものが生みだせるようになったのは間違いないです。これはスタジオにとって大きな前進で、経験の浅い若手のスタッフには特にそうでした。またFlashを使うよりも、Harmonyでの方がよりクリエイティブなリギングができると思います。リグやデフォーマーの機能による生き生きとした動きのシーンを実際に見た時はすごく満足しました。
また、Photoshopで描ける紙上のペンの質感や、チャコールペンの線などを再現できるし、背景に合わせて違ったスタイルのラインをいろいろ試してみたりもできました。Toon Boomのソフトを初めて今回の制作に取り込んだことで、スタジオにはとても重要な進化がありました。リギングに関しては特にそうです。時間や予算を効率的に使えるようになった事も、私たちが今取り組めんでいる次回シリーズに、結果として大きく影響しているでしょう
『ザ・ストレンジ・ショア』以前は、私たちのスタジオは昔ながらの紙とデジタルスキャン、彩色、そしてFlashという流れを行っていました。ですので、Harmonyによる制作に移行するのは大きな変化でした。しかし使い方を学び、リギング工程に磨きがかかった事で、よりカスタマイズした方法で、豊かな動きや表現が可能になったと思います。
例えば、キャラクターの手足が自由になったことで再描画やポージングが素早くでき、そのまま直接アニメーションに移れたのも大きな利点です。ペグの機能によりポージングがスムーズになったり、デフォーマーを使用することで、キャラクターモデルはそのままに正しい比率で動かすのが随分と楽になったりと、アニメーションがいい形で作れるようになりました。
またデフォーマーの機能を使用することで、チームの若手スタッフの描画スキルがとても上がったと思います。『ザ・ストレンジ・ザ・ショア』のスタイルの特性上という理由もありますが、リグだけに頼りすぎず、豊かな表情や感情、一度きりの特別な動きを作り出すために、カットによっては1から描画することも多かったのです。
Source: Ludo Studio
ー 『ザ・ストレンジ・ショア』のシーズン1を終えて、次回作でもHarmoneyを使用する予定ですか。
スコット・V・ボッシュ氏:はい、次の制作でもToon Boomのソフトを使う予定です。大掛かりなプロジェクトや時間がかかるプロジェクトでは、生産性を向上させる事はとても重要です。ハイライトや濃淡づけ、ライティング、さらには洪水や火、スライムなどの特別なエフェクトなどなど、ほとんどのVFX作業が一つのプログラム内で完結させられるのが、私たちにとってはすごくよかったのです。それによって、制作途中でもすぐに確認して、アニメーション・チームに返すことができます。
ー オーストラリア出身でない読み手のために最後にお聞きしますが、オーストラリアの2Dアニメーション業界について教えてください。
スコット・V・ボッシュ氏:ハンナ・バーバラを始め、1970年代から2000年代に創設されたディズニーのサテライト・スタジオなど、この40年以上、オーストラリアにも2Dアニメーションが根付いています。CMやTV、ゲーム業界への供給のため、2Dアニメーションのスタジオがいくつも出来てオーストラリア中に広がっています。
デザイナーやアニメーター、プロダクション関係者など、増え続ける人材とともに、たくさんのスタジオがオーストラリア国内や海外からの需要に応えて成長し続けています。共同制作や著作権などの知的財産の共有がますます進み、技術や制作の進化に追い付いていく事は、これからのオーストラリアの業界全体にとって重要性を増しつつあります。Toon Boomはそれを可能にする先駆者であると思います。
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