「カットアウトアニメーションに興味があるから、Harmonyを使ってみたい」と教えてくださった方を何名も知っています。Harmonyは、作画からカットアウトまで対応しますが、確かに、その中でもカットアウトアニメーションの機能は著しく進化しています。
関連機能のひとつが「マスターコントローラ」です。この機能を使いこなせるようになると、様々な意味で制作物をコントロールしやすくなります。
今回のクリエイターインタビューは、ベルギーのアントワープでデザインスタジオ『HandMade Monsters』を運営するマーク・ボルガイヨンさんに行いました。彼はイラストレーター兼アニメーターで、世界中の広告や新聞・雑誌、本などでイラストを描くほか、様々なアニメーション作品を手掛けています。
Toon Boomのアンバサダーもしていただいているボルガイヨンさんが、最近行ったマスターコントローラを活用したカットアウトアニメーション作品についてお話を聞きました。Harmonyのカットアウトに興味のある方には、楽しんでいただけるかと思います。
Q: Did I look forward to learning the Master Controller in Toon Boom Harmony, since it seemed a bit complex.
— Mark Borgions (@HandMadeMonster) October 1, 2019
A: No
Q: Did it turn out to be a lot of fun and easy
A: YES@ToonBoom #toonboomharmony #harmony #animation pic.twitter.com/LCTFMcGou6
ー 運営されているスタジオ『HandMade Monsters』の仕事について教えてください。
『HandMade Monsters』はイラスト、デザイン、アニメーションを専門にする私の個人スタジオです。私自身はグラフィックデザインの出身ですが、現在はイラストに重心を置いています。1人ですので、プロジェクトやクライアントを選んで、自分が引き受けられる規模で仕事を行っています。ですので、大規模な制作環境で仕事をすることはめったにありません。こうして制限することで、仕事のペースや質をコントロールできるようにしています
ボルガイヨンさんによるアニメーションテスト / HandMade Monsters.
ー ボルガイヨンさんの作品は、フラットな色遣いやスクリーントーン、まっすぐな角度のついた線画などが効果的で独特ですが、こうした作品のスタイルは何に影響を受けているのでしょうか。
もともと60〜70年代のデザインが大好きで、特にソール・バス、ポール・ランド、ミルトン・グレイザー、モーリス・バインダーなどの偉大なデザイナー達のファンなのです。彼らは皆イラストを重視してデザインを作ってきた人たちで、何人かは映像の仕事もしていました。ですので、彼らの影響はかなり受けていると思います。
また、トムとジェリーを生み出したアニメーターのハンナ・バーバラや、40〜50年代に活躍したアニメスタジオUPAなどの作品も、私が好きなジャンルです。
昔の制作はどこか不完全だったり制限があったりしますよね。そういう完璧すぎない所が好きで温かさを感じます。時間を経て、紙やインク、フィルムの色が変わったり、ザラつきが増したり、そういう細部に味わいを見つけ出してしまうんです。また限られた予算で大きなプロジェクトを成し遂げること自体にもワクワクします。
そういった事を全てひっくるめると、私の作品の雰囲気が出来上がったんだと思います。
ー Harmonyで制作したひとつ目巨人のキャラクターのリグを拝見しましたが、このキャラクター制作を行った『Heerlijk Hoorspel』というプロジェクトについて教えてください。
ボルガイヨンさんによるリグのプレビュー / HandMade Monsters.
『Heerlijk Hoorspel』は、2人の友人と一緒に作ったシリーズもののオーディオ・ブックで、CDやダウンロード音声とともに絵本として販売されています。古典文学作品を子ども向け童話にアレンジしたもので、シリーズの各作品はそれぞれ60分以上あります。これらの作品では、15人ほどの俳優がキャラクターを演じ、オーケストラが演奏する楽曲や効果音も収録しています。
このシリーズのすべてのビジュアルは私が担当しています。なので、絵本のイラストを描くだけでなく、マーケティング用の素材づくりのため、描いたキャラクターを動かして遊んでみたんです。
このひとつ目巨人は、シリーズ作品のひとつにしたギリシャ古典文学『オデュッセイア』に出てくるキャラクターです。ちょうどHarmonyのマスターコントローラーの使い方を身につけたいと思っていたので、このキャラクターを使って、初めて簡単なリグを作ってみたんです。実際、出来たものをマーケティング素材としていろんなところで使用しました。
ー Harmonyのマスターコントローラーを初めて使ってみて、実際いかがでしたか。
初めはマスターコントローラーを試してみるのに躊躇していたんです。スクリプトに関する知識も少ないですし、きっと出来上がる前に壁にぶち当たってしまうだろうと思っていました。でも実際は、まったく逆でしたね。
私が携わるプロジェクトでは、キャラクターを再利用して使うことはほとんどないのですが、それでもシンプルな9種類のポーズを作るだけでも時間が節約されて、アニメーション作りがかなり楽になります。スクリプトについても、ほとんど意識することなく制作できます。
こうだったらいいな、という改良点は私の中でまだいくつかありますが、この機能はこれからも成長していくと思いますし、すでに現時点で制作を大きく変える革新的なツールになっていると思います。
ボルガイヨンさんによるリグのデモンストレーション / HandMade Monsters.
ー ひとつ目巨人のキャラクターのリグの制作と仕上げにはどのくらいかかりましたか。
このひとつ目巨人はちょっと特殊なキャラクターです。一個しか目しかないので、通常のキャラクターほどには、頭が回転する時の動きの複雑さはありません。また、鼻もないですしね。目、眉、口、2つの耳という単純な頭部なので、だいぶ動きが楽でした。
口の形やまぶたの動きをつけるのも含めて、リグ作りにかかった時間は1〜2時間程度だと思います。完成させるために、一度戻ってあちこちを微調整したりはしました。
ー マスターコントローラーを使ってリグ制作をしてみたいと思っているアニメーター達にアドバイスはありますか。
まず、やってみるべし!ですね。私もより複雑に使えるように、使用する度に新しい事を試してみたりしています。やりながら学ぶのが一番簡単な方法だと思います。
TVのアニメシリーズなどの大規模制作では、リグを制作しておくことで大量の作業時間が短縮されて楽になるでしょうし、小さなプロジェクトでもキャラクターを大幅にコントロールできるようになるので、使ってみる価値はかなりあると思います。
オール・オア・ナッシングみたいなものではないので、小さな部分から使ってみるだけでも、メリットが十分にあるはずです。
ボルガイヨンさんによるアニメーションテスト / HandMade Monsters.
ー 最後に、この記事を読んでいる皆さんにシェアしたい考えや、今後取り組んでいきたいことなどを教えてください。
アニメーションは私にとってイラスト作品の延長にあるものなので、初めてクライアントに見せる時は、絵コンテやアニマティックよりも最終的な完成形での見た目を見てもらうようにしています。実際の制作では、もちろんストーリーボードやアニマティックを作りますが、それをクライアントに見せることはめったにありません。
最初の2〜3ショットを作り上げて、実制作では一貫してそれを参考にします。一番最初にその映像を見せることで、クライアントは今後作っていく世界観やデザインを掴むことができます。これまでの経験から、そうすることで彼らの信頼を得やすい事を学びました。その信頼を得れば、あとはこちらの裁量に任せてくれます。
今回のオーディオブックのプロジェクトでも学んだ事はたくさんあります。今後は脚本作りにも携わっていきたいと思います。これまでの脚本は完全に作り込みすぎているところがあったので、物語の核心にもう少し近づいて、聞き手にメッセージがより伝わりやすいように改良しながら作り続けていきたいと思います。
マーク・ボルガイヨンさんの作品は、『HandMade Monsters』のWebサイトやInstagramでもチェックできます。