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Storyboard Proには絵コンテに必要な機能が過不足なく入っている【新海誠監督インタビュー】

作成者: 遠山 怜欧|2019/07/30 2:16:00

本記事は、2019年2月に公開されたものです。『天気の子』公開に合わせ、再告知いたします。

Toon Boom Animationの絵コンテソフト『Storyboard Pro(ストーリーボードプロ)』をご愛用いただいている、新海誠監督。

『秒速5センチメートル』や『言の葉の庭』など、数々の名作を生み出してきた新海監督が、『君の名は。』の制作時に絵コンテソフトを探していて出会ったのがStoryboard Proだったそうです。

そんな新海監督の新作『天気の子』(2019年7月19日公開予定)でも、実はStoryboard Proが使われています!

現在、新作の制作で大変お忙しい新海監督ですが、実はToon Boom、今を遡ること数ヶ月前、新作発表よりもずっと前に、少しだけお時間をいただき、お話を伺うことができました!今回は、そのインタビューの様子をご紹介します。

絵コンテソフトとして(Storyboard Proは)きっと今すごくいいバランス

Toon Boom:Storyboard Proを使用してのご感想をお願いいたします。

新海監督:Storyboard Proで一番気に入っているのが、描画時の描く動作がすごく軽いところです。他の画像編集ソフトで描くよりStoryboard Proで絵を描く時の方が気持ち良かったりします。

その分、もっとトーンカーブが使えるようになったり、色調補正が使えるようになったりすればいいのに、と思ったりもするのですが、でもそうするとやはり画像編集ソフトになっていってしまうので、絵コンテソフトとして、きっと今すごくいいバランスなんだろうと思います。

他に気に入っているのは、ツールプリセットが柔軟で、描く為の道具として自分でカスタマイズできる所ですね。ペン先もカスタマイズできるし、ブラシと色とレイヤーをショートカットひとつで作れるので、限られた色や限られたペンで素早く描く、という絵コンテに適したペイントツールになっているというのが好きな所です。

ショートカットにレイヤーを作るのも、色も色々と登録できるので、その辺りが絵コンテを描くのにすごく有能で助かっていますし、他のペイントソフトにはない機能だと思います。

サウンドの設計までStoryboard Pro上で出来てしまう

それに、サウンドクリップの扱いが柔軟で、トラックが制限なくサウンドクリップを配置できて、それがきちんとスナップするとか、本当に絵コンテに必要な機能が過不足なく入っているのも好きな所ですけど、全部好きなんですよ。

オニオンスキンツールも使いやすいし。あと選択してるレイヤー以外が薄くなるライトテーブル機能がすごくいいと思うんですよ。他のソフトにも欲しいくらいの機能ですよね。本当に描くために実用的な機能が揃っていて、すごく良いです。

あとは入出力がきちんと充実していて、他のソフトとの連携が取りやすくなってるというのも気に入っています。例えば編集ソフトに丸々サウンドクリップも含めて書き出せるというのは、Storyboard Proの活躍の幅というのをすごく広げていると思います。絵コンテを代替するだけでなくて、映像制作の編集ソフトに近いところまで出来ると思うんですよね。

日本の伝統的な紙ベースでの設計ってやっぱり絵の設計にどうしてもなっちゃうと思うんですけど、その場合、効果音を「ゴゴゴ」とか言葉で書く訳じゃないですか。そうではなくて、サウンドの設計までStoryboard Pro上で出来てしまうんです。その上で、それを外の編集ソフトに持っていける事、それがやはりすごく優れていますよね。

そういう意味では絵コンテって映画制作の1番最初の入り口にもなるんですけど、入り口から1番最後の出口の編集の直前のところまでStoryboard Proで面倒見ることが出来るので、愛着が湧きますよね。映画制作の期間、ずっとこのソフトと付き合うことになるので、どんどん好きになります!

Toon Boom:ありがとうございます!

新海監督次回作の絵コンテでも、Storyboard Proが!!

Toon Boom:そして、新海監督の次回作でもご利用いただいているという事ですよね!?

新海監督:もう必須ですね。やっぱりビデオにもエクスポートできるので、スタッフともシェアできますし。今日もStoryboard Proで書き出したビデオコンテを、普通に一本上映する感覚で95分位みんなで見てたんですけど、そうすると完成映画を見ている感覚に限りなく近いんですよね。

絵はもちろん、これから差し代わっていくし、声も本番で差し代わっていくけど、仮でも全部載ってる訳だから、ビデオコンテで見れば絵を描くスタッフじゃなくても作品に対していくらでも意見が言いやすいですよね。

単純に、「早すぎる」とか「遅すぎる」みたいなスピード感も含めてもそうだし、あと「面白い」「面白くない」みたいなものも。

この状態で面白くなければそれはやっぱり面白くないんですよ。こういうシビアな判断ができる。

紙ベースだと「これが面白いと思えないのは自分の読み方が悪いんじゃないか」とか、映画の動きやテンポが分かってないんじゃないか、という不安が絵描き以外の人にはどうしてもあると思うんですけど、Storyboard Proでこういう風にムービーとして組み立てると、よりシビアな目で、そして絵を描く専門のスタッフじゃなくても映画がどういう風になるのか、というのを早い段階からみんなとシェアする事ができる、それがすごく映画制作の力になっていると思います。

『君の名は。』制作時に出会った絵コンテソフト

『君の名は。』を作る時に絵コンテのソフトが欲しくて、今までは他のソフトでやっていたんですけど、でももっと良いものが今の時代あるだろうと思って色々探したんですよ。それで、実際いくつかある事はあるんですが・・・ひと通りいじってみて、それでもやっぱり最終的に自分が求めてる機能を全部揃えてるのはStoryboard Proでした。

でもその時はまだ日本法人もなくて、直接カナダのサイトでクレジットカードで買いました。英語版しかなかったんですけど、使い方のムービークリップが全部公式サイトにあったので、そんなに不安なく使い始められました。ムービーだと見ればわかるので、全然不便じゃなかったです。ソフトのマニュアルってそんなに難しいものではないんですが、やっぱりムービーがあると安心ですね。

Toon Boom:現在ちょうど、Storyboard Proに限らず、Harmony、Producerにもムービークリップを含めた日本語版のマニュアルを用意している所です。

新海監督:楽しみにしています!例えば、なかなか人に解説してもらわないと分からないディープな機能を解説したものがあると、より嬉しいかもしれないですね。

ただ、基本的には自分で今分かっている使い方で、絵コンテを書く仕事には全く差し支えがないので、将来バージョンが楽しみですね。

あと、今回のアップデートで描く時にシフトキーを押すとビットマップツールでも直線が引けるようになって、今までベクターだけだったと思うんですけど、細かい所なんですがそれがすごい便利で、いいバージョンアップでした。

描く人に寄り添った細かな機能があるというのが素晴らしいですよね。

新海監督へのインタビューを終えて

実は、以前から新海監督がご自身のTwitterで、Storyboard Proについてたくさんつぶやいてくださっているのを拝見していました。

Toon Boomはまだ、やっと日本支社を開設したばかりで、これから日本のアニメシーンで色々とお役に立ちたいと願っています。そんな私たちにとって、新海監督からいただくフィードバックはとても貴重でありがたいことです。

改めて、今回のインタビュー及び日頃のご愛用、ありがとうございました!

プロフィール

新海誠(しんかい・まこと)
1973年生まれ、長野県出身。
2002年、個人で制作した短編作品「ほしのこえ」でデビュー。同作品は、新世紀東京国際アニメフェア21「公募部門優秀賞」をはじめ多数の賞を受賞。2004年公開の初の長編映画『雲のむこう、約束の場所』では、その年の名だたる大作をおさえ、第59回毎日映画コンクール「アニメーション映画賞」を受賞。2007年公開の『秒速5センチメートル』で、アジアパシフィック映画祭「最優秀アニメ賞」、イタリアのフューチャーフィルム映画祭で「ランチア・プラチナグランプリ」を受賞。2011年に全国公開された『星を追う子ども』では、これまでとは違う新たな作品世界を展開、第八回中国国際動漫節「金猴賞」優秀賞受賞。2012年、内閣官房国家戦略室より「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」として感謝状を受賞。2013年に公開の『言の葉の庭』では、ドイツのシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭にて長編アニメーション部門のグランプリを受賞。同年、信毎選賞受賞。2016年8月に全国公開された最新作『君の名は。』は、国内動員数1900万人を突破し、世界中でも大ヒットを記録。自ら執筆した小説版も170万部を超えるなど、社会現象にまで拡がった。