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より良い作品を生み出すには、Storyboard Proの絵コンテが欠かせない【『HELLO WORLD』伊藤智彦監督インタビュー】

作成者: 遠山 怜欧|2019/09/19 1:00:00

今回は脚本、キャラクターデザイン、3DCGアニメーションなど各分野の才能を集結させた注目のアニメ映画『HELLO WORLD』の公開を2019年9月20日に控えた伊藤智彦監督にインタビュー。

伊藤監督といえば『時をかける少女』『サマーウォーズ』で助監督を経験したのち、『劇場版 ソードアート・オンライン - オーディナル・スケール -』の監督を務め大ヒットに導いた、現在のアニメシーンを代表するクリエイターの一人。自身初の3DCGアニメとなる今作に挑戦するにあたり、Toon Boomの絵コンテ作成ツール『Storyboard Pro』を導入されました。

絵コンテの見やすさが作品のクオリティに大いに関わってくると語る伊藤監督。今作の魅力から日本アニメの未来、そこにStoryboard Proが不可欠な理由まで、たっぷりとお話を伺いました。

Storyboard Proとは?

Storyboard Proは、絵コンテやビデオコンテを制作するためのWindows/Mac用ソフトウェアです。日本国内外を問わず、様々なクリエイターさんやスタジオにてご利用いただいています。

製品情報:Storyboard Pro の3つの魅力
無料体験版:こちらのページでユーザー登録を済ませて、ダウンロード

『HELLO WORLD』は今までにない映像表現にチャレンジした作品

ー まずは『HELLO WORLD』の見どころを教えてください。

一見すると2Dに見えなくもない3DCG作品と言ったらいいんでしょうか。まずはなんと言っても『けいおん!』の堀口悠紀子さんデザインのキャラが3Dで動くぞ!というのが見どころですね。その上でこれまでの2Dではできないようなカメラワークが新鮮な作品に仕上がったと思います。

ー 近年、日本アニメではセルルックアニメ(3DCGの中でセル画アニメのような2D表現を実現する手法)の作品がかなり増えてきた印象です。

そうですね、3DCGにおいてはハリウッドに何十年も先をいかれているのが現状なので、違う道を探る必要があるのでは、という思いが俺の中でもずっとありました。この方法だったら戦えそうだなというのを今作で示すことができたと思っています。

ー 今回は3DCGに高い技術を誇るグラフィニカがアニメーション制作をされていますね。

3DCGを扱っているスタジオを何社か見学させていただいたんですが、おそらく他社だったらここまで自由にできなかったのではと思います。3DCGで映像を作るとなると、例えば髪の毛がなびかないような工夫をしましょうとか、宇宙服を着せよう、サングラスをつけたら目の芝居が軽減できるぞみたいな、技術的負担をなくすための省略や暗黙の禁止事項が多いんですよね。グラフィニカさんはそこをあまり考えずにできたというか、無茶を言っても「やってみましょう!」と答えてくれる安心感がありました。

ー 今作が初の3DCGによる作品というところで、今までとの違いや苦労された点はありますか。

今までの作画による手描きアニメとは違い、3DCG作品はムービーになっているものをチェックしていく作業が多く、監督として本質的に演出業をやれている感じがしました。ただ3DCGはまず初めに制作するモデリングの数を決定しないといけないので、初期段階で色々と決め込んでおかないと変更しにくい点に戸惑いましたね。翻してくれるなと言われてしまうことも多くて。3DCGって工程重視で、作業に何日かかるか細かく管理してシビアに考えるんですよ。

逆に手描きアニメは、描いていくなかで「こっちの方がいいな」という場合に修正したり、アニメーターが独自にアレンジしてくることもある。どっちが良い悪いということではないんです。手描きの場合はワークフローは調整できるけれど、アニメーター任せにしすぎるきらいがあるし、3DCGはワークフローはきっちりしてるけど融通はききにくい。両者をうまく組み合わせられないのだろうかと思うんです。アニメの作り方そのものを、もっと自由にできないのかなって。

ー 現状は間がないと。

ほどよくルーズに3DCGを使いこなせる人がいないんだろうなという印象です。3Dと手描きアニメのボーダーがちゃんとしすぎているというか。もっとボーダレスに、曖昧にできるのではないかと思っています。例えば海外作品でいうと『スパイダーマン:スパイダーバース』はボーダレス化を実現しているんですよね。あれに勝とうと思うと、戦い方を柔軟に考えないといけない。例えば今作も思ったような表情にならないなという箇所では各アニメーターが手描きで表現するなど、臨機応変に対応していたりするんです。そういう中間地点を探っていきたいですね。

ー 前回の劇場での監督作品『劇場版 ソードアート・オンライン - オーディナル・スケール -』(以下劇場版SAO)は原作がありましたが、一方今回は完全オリジナル作品です。作る上での違いは感じましたか?

オリジナルはある意味誰も回答を知らないとも言えるので、自分にのしかかる比重は大きくはなりますが、巻き込めるおもしろさがありますよね。例えばこのキャラは誰に描いてもらう?となったときに、おもしろいと思った人物にアサインできる。このカラスは誰に描いてもらおうかな、マスコット要素もあるけれどキモカワっぽいやつがいいので、藤子不二雄ゾーンと赤塚不二夫ゾーンを知っているこの人がいいな、とか。その辺りは自由度が高くて楽しいですね。

ー 今回、独創的な作品で知られる野﨑まどさんが脚本ということでも期待されるファンの方は多いと思います。野﨑さんとはどのようにやり取りされていたのですか。

脚本制作を終えられてからも頻繁にやり取りはしていて、音声収録の際も毎回来てもらっていました。音に出してみたときにすわりが悪いところはその場で変更しようかとなったり、その後も密に連絡をとりながら進めていきました。

ー 野﨑さん脚本というところで、伏線をどのように仕込んでるのかも注目したい点だと思うのですが、それを映像で表現する際に意識されましたか?

脚本のテキスト上には明文化されていない点を、どのように映像表現として見せるのかというのはこちらのがんばりどころですよね。ノベライズを読んだ方にも楽しんでいただけるような、映画ならではの楽しい裏切りが伝わればいいなと思います。

『Storyboard Pro』の強みは音声との連動性の高さ

ー Storyboard Proはいつ頃から導入されたのですか?

2017年の9月から導入しました。劇場版SAOのアクションシーンを描かれた鹿間さんが使っていたのを見て、細かい指定と作業、時間やカット管理などが楽にできそうだなと気になったのがきっかけですね。購入当初から『HELLO WORLD』で使うことは決まっていたので、取り掛かる前に実験的に違う3DCG作品に使ってみたりして、どう使ったら効率的かというのを半年ぐらい試行錯誤した上で、『HELLO WORLD』の絵コンテ制作に取り組みました。

ー 『HELLO WORLD』の制作では初めからStoryboard Proを使われていたということですね。

そうですね、手描きアニメだと各カットにタイムシートという素材情報を集約したものを作り、そこにセリフのタイミングも書いていくのですが、3DCGだとその工程は必要なく、プレスコ(絵に声優が声を合わせるアフレコと違い、先に録った声や音に合わせて絵を描く手法)で撮った音声を先にStoryboard Proのムービーに貼り付け、各カットを切り分けてアニメーターが芝居をつけるという流れです。Storyboard Proを使う上で作業負担の少ない方法は何かを考えた結果そうなりました。

ーStoryboard Proは絵コンテに音声を入れられることをメリットにあげてくださる声が多いです。

あとは音楽チームも先行して動いていて、今回音楽を担当してくれているOKAMOTO’Sとも一年以上前には話を始めていました。なので絵コンテを修正する際にはもうデモ音源がなんとなくあったので、それを絵コンテに入れてみて、ちょっと雰囲気が違うなとか、もう少しこのシーンは尺がいるんじゃないか、ということも早い段階で想定しながら最終形まで進めることができましたね。

ー 今回はアフレコではなくプレスコを採用したということですが、プレスコへの印象はいかがですか?

手描きアニメは基本アフレコなんですが、3DCGはプレスコが多いんですよね。今回経験してみて、手描きアニメにおいてもプレスコをやるべきではとすら感じました。役者を決める作業さえ乗り越えればすぐに録音へ進むことができるので、絵ができていない段階から音声を先に走らせることができるし、役者さんにアニメーションの口パクに合わせていただく必要がないので、自然な芝居が期待できます。声優さんではなく俳優さんに声を担当していただく場合は特に有効だなと感じました。

見やすい絵コンテは作品をオープンにし、クオリティを上げてくれる

ー 今作でStoryboard Proが特に役立ったと感じた点はありますか?

Storyboard Proのおかげで、普段意見が出ないような人からも話を聞けたのが大きなメリットでした。Storyboard Proの絵コンテってムービーとして書き出してビデオコンテにできるので、雰囲気や尺などが想像しやすく、絵コンテを読む習慣のない人にも直感的に分かってもらえるんですよね。今回はさらに音声と音楽のデモも入っていましたし。従来の絵コンテって複数情報を入れ込むツールなんだけれども、なんせ特殊なフォーマットなので見る方のハードルが高いんです。そこをオープン化して意見を取り込むことが、結果としてより良い作品を生み出すことに繋がったと思っています。

ー 実際にどのような方に意見を聞くんですか?

例えば、製作委員会の方達にビデオコンテを見てもらったのですが、100個ぐらい意見が出てくるんですよ。紙でやっていた場合と出てくる意見の量がまったく違いました。それだけ出ればもちろん玉石混合なんですが、中には芯をつく意見が出てきたりもするんです。

ー 絵コンテに馴染みのない方からの意見にも耳を傾けるというのは、少し意外ですね。

もちろん取捨選択はさせてもらいますが、おいしいところはいただいておくというか、直して良くなったら俺の手柄になりますしね(笑)。これ、脚本家の岸本卓さんが言っていたんです。自分の作ったものにダメ出しされるのってなかなか辛いけど、でもそこで意見を聞いてちゃんと直して、それで作品が良くなったら褒められるのは自分だぞっ!て。じゃあやるしかないなと。個人のポテンシャルで進めるよりも、100人の知恵を結集したほうがいいんじゃないかなという考えですね。

ー 絵コンテの見やすさが作品のクオリティを上げることに繋がるということでしょうか。

そう言っても過言ではないと思いますよ。いろんな人がいろんな立場で意見が出せる素材を作れるって、日本アニメ界には今までなかったかなと思います。業界的に、この絵コンテが出来上がったから信じろ!っていうなんとなくの文化があるんですよね。

ー 分からない人もいるまま進んでいくという感じですね。

最終的に責任を持つのは監督の仕事なんですが、色んな人が理解ができて意見を出せる環境を仕込んでいかないと、より良い作品づくりができないのではないかと思うんです。ハリウッドだとできあがった後に作り直すってこともしょっちゅうあるんでしょうけど、それは予算上できないので。『HELLO WORLD』に関しては絵コンテを作りながら少しずつ変えてという、従来のやり方とハリウッド的なやり方の中間という感じで進めていきました。Storyboard Proだと修正が簡単にできるので、その方法と相性が良かったです。

絵コンテって、自分の先入観を取り外して客観視をしつつ、いかに絵コンテを描いている時の熱量を担保するかが重要だと思っています。これがStoryboard Proなら出来るんじゃないかと思っているんですよ。そしてStoryboard Proを有効に利用するにはこのプロセスが一番いいのでは、というのを俺は今回実現したつもりです。

Storyboard Proの普及活動をしてユーザーを増やしていきたい

ー 作業面でStoryboard Proを使って良かった点は何でしょうか。

カットの入れ替えによるトライ&エラーが気軽に出来る点がすごく良かったです。紙だとシュミレーションしづらいところも多いので。Storyboard Proは細かい尺単位で絵を描けるので、想定の誤差が少なくなった気がします。誤差が少ないのはムービーで見られるからというのも大きいですね、微調整がききやすい。まぁその分すぐいじっちゃうんでコンテのバージョンがどんどん増えていくっていうのもあるんですけれど(笑)。

ー 具体的にStoryboard Proのお気に入りの機能はありますか?

ラップ計測機能がめちゃくちゃ助かっています。タイムラインに合わせてそのまま切っていくことができるのがすごく楽で、ストップウォッチをまったく使わなくなりました。ワンアクションですごく直感的に作業ができています。

あとは地味な話なんですが、1や2のキーに拡大・縮小の操作が割り当てられてるのが押しやすくって嬉しいです。俺があまりツールのカスタマイズをしない人間なので、初期状態から便利ってのがありがたいです。

ー Storyboard Proに対する不満点はありますか?

そうですね、総カット数が表紙に表示されると最高ですね。尺は出てくるので何カット何秒と一緒に出てきてくれたら。

あと便宜的にフェードイン・フェードアウトするときに新規カットを作らざるをえないので、そこがワンカットにならないかなとか、ディゾルブするときに同カット内でできるようにしてもらえたら、もう少し直感的に作業できるかなと思います。

ー なるほど、貴重なご意見ありがとうございます!それでは今後もStoryboard Proは使っていただけますでしょうか?

俺自身はもちろん今後も使っていきたいですし、周りにもStoryboard Proユーザーを増やしていきたいです。ユーザーが増えればプロジェクトファイルごとやり取りして編集できるじゃないですか。実際に『進撃の巨人』の絵コンテを描いた時に、監督の荒木哲郎さんとはStoryboard Proでプロジェクトファイルごと送ってやり取りしたんですよ。後は次に取り組む予定のテレビシリーズで絵コンテに『ジョジョの奇妙な冒険』などを手がけてらっしゃる津田尚克さんをお呼びしています。彼もStoryboard Proを使っていたり。使う人間が増えることで利便性も上がっていくと思うので、普及活動をどんどんしていきたいと思っています!あとは値段が安くならないかなあ〜(苦笑)

ー 心強いお言葉、嬉しいです!また率直なご意見もありがとうございました!