今回は『StoryBoard Pro』を活用するアニメーター兼コンテ作家であるマイク・モリスさんにインタビューしました。モリスさんはロサンゼルスを拠点に、アメリカの人気TVアニメシリーズ『ザ・シンプソンズ』や、ディズニーのテレビシリーズ『Future-Worm!(日本未公開)』、『ダックテイルズ』などを手掛けてきました。
数々の作品に携わってきたモリスさんですが、そのキャリアを通して長く使い続けてきたのが、Toon Boomのビデオコンテ制作ソフトStoryboard Proです。彼は今では最新版のStoryboard Pro 7のテスターとしても、開発に関わっていただいています。
このインタビューでは、モリスさんが惚れ込んだそのStoryboard Proの特性や魅力について語っていただきました。
ー Toon BoomのStoryboard Proを使い始めてどのくらいになりますか。
使い始めたのが2008年頃です。当時はアニメーターとしての仕事を始めたばかりで、アニメーターの仕事が少ない時期で、またキャラクター作りの仕事にも興味を持っていた頃でした。なので、絵コンテ作りに自然に惹かれていったのだと思います。Storyboard Proのバージョン2辺りから学び始めたので、少なくとも10年は経っていると思います。
ー 使い方はどこで学んだのですか。
ほぼ仕事を通しての独学ですね。同業の友人たちやインターネットのチュートリアルなどの情報も参考にしました。『ザ・シンプソンズ』で初めてプロの絵コンテ作家として仕事をしましたが、当時はStoryboard Proのバージョン4を使っていたと思います。
ー コンテ制作のソフトウェアとして、Storyboard Proがまず最初の選択肢になりえるのはなぜですか。
台詞からシーン作りまでコンテ制作に必要なものが全て揃っているからです。絵もかけるし、編集もできて、1つのソフトウェアで小さなムービー作りができます。同じくToon Boomの『Harmony』のようなアニメーション制作ソフトではないので、もちろん限界はありますが、本格的なアニメーションがつけられますし、手描きで行うコンテ作業で必要な事は全てできますので、多目的に対応できるソフトだと思います。
ー 他のソフトウェアにはないStoryboard Proならではの特性はありますか。
カメラ機能は大きな特性だと思います。特に、私はビルトイン3Dカメラが気に入っています。Photoshopでコンテを作成する場合、絵の中のカメラの動きは自分で別に描いたり作ったりしなくてはなりません。でもStoryboard Proでは、カメラ機能を使って動かすだけで済みます。物のサイズを変えたり、ズームイン・アウトしたり、追いかけたりパンしたりチルトしたり、そういった動きの指示のすべてが、自由に1つのソフトウェア上で出来るのは、Storyboard Proを使うメリットだと思います。
またStoryboard Proの描画ツールもいいですね。確かにデジタルで描画できるソフトはいろいろありますし、他のソフトを使って描画して、別の編集ソフトで統合するのが好きな人もいます。ただ、Storyboard Proのように統合化されたソフトを使う方が、制作工程が大幅に削減され合理的です。
ー Storyboard Proが業界の流れを変えるツールになることに初めて気づいた時や、その時のプロジェクトの事を覚えていますか。
「これは!」みたいな衝撃的な瞬間があったというよりも、使っていくうちにそう気づいたんです。『ザ・シンプソンズ』に携わった最初の方で、Adobe Premiereや他の描画ソフトを使うよりもStoryboard Proを使った方が多くのことができるなと思いました。いろいろ試してみたり、使い方を研究していくうちに、そういった気づきが何度かあって。Storyboard Proの使い方を学べば学ぶほど好きになったし、どんなコンテ作りでも可能だと思えるようになりました。
ー 『ザ・シンプソンズ』以外にもStoryboard Proを使ったプロジェクトはありますか。
ええ、私がこれまで取り組んできたプロジェクトは全てStoryboard Proを使いました。私の場合、TVアニメシリーズの仕事を中心にしてきましたが、Storyboard Proは業界の主力ソフトです。『ザ・シンプソンズ』以外にも、ディズニーのTVチャンネルのシリーズ『Future-Worm!』や『ダックテイルズ』などでも使用しています。
ー Storyboard Proを使う上で特に気に入っている事はなんですか。
Storyboard Proの大きな魅力は、このソフトが与えてくれる自由さです。Storyboard Proを使えば、たくさんのスタッフを抱えずに、1人で多くの事ができるようになります。独立したクリエイターにとって、仕事を成し遂げるために、必要な事をなんでも行える信頼できるツールを持っておく事はとても重要ですから。
通常の制作工程には、たくさんの人が関わります。それは素晴らしいことです。私は編集スタッフの友人もたくさんいて、一緒に仕事するのも楽しいです。皆が自分たちのスキルやアイディアを持ち寄って作り上げていく事は、アニメーション作りの魔法のひとつでもあるんです。でもクリエイターは、時には自分一人で何かを作りたいだけの時もあると思います。
そういった場合でも、Storyboard Proがあれば簡単に作業を始められますし、その作業を効率化できます。一人のクリエイターとして、何か作り上げたい時に困難なく打ち込めるツールを持っておけるのは、素晴らしいことだと思います。
ー プリプロ段階を合理化させるStoryboard Proの特性は他にもありますか。
そうですね、Storyboard Proが非常に順応性に優れている理由のひとつでもある、ベクターの描画機能です。間違いなく時間と労力を大幅に節約してくれる特性だと思います。描いたものを移動したり、微調整したり、拡大縮小したりしても、描画のクオリティはそのままに保てますから。このソフトウェアが他より際立っているのは、このベクターによるブラシ機能が大きいのではないでしょうか。
また、Storyboard Proの編集機能にも、制作スタジオがもう少し注目するといいのにな、と思います。各スタジオが自分たちの編集システムを持っているのは知っていますが、私にしてみるとStoryboard Proのタイムラインやアニマティックの機能をあまり活用していないのは、非常にもったいないなと感じます。タイミングの調整をしたりちょっとした編集をしても、データをエクスポートしなおすだけですし、多くの作業がかなり早く出来るように思うんです。これは制作スタジオが活用しきれていない機能だと思います。
ー 新しくなったStoryboard Pro 7ではどの新機能が一番よかったですか。
新しい描画機能が気に入っています。ブラシ機能のエンジンがこれまで以上によくなりました。よりアーティスティックな感性が取り入れられていて、鉛筆だったり紙だったり、私が好きなアナログな質感が再現できるようになりました。これまでのバージョンでは鉛筆で描くというより、まだ太い油性マーカーで描いている感じがありましたが、今回の新バージョンでは、コンテ作業で微妙なニュアンスを表現することができます。
ー アニメーションの需要が高まるにつれて、Storyboard Proのようなデジタルツールに期待することはありますか?
デジタルツールが持つスピードと多機能性ですね。簡単に修正したり、修正前に戻ったり、同じ作業を繰り返したりが出来ることです。新しいStoryboard Pro 7の新機能でもそうしたファイル管理機能が強化されていると思います。ファイルをコピーしたり、コピーした一方を編集したり、そういった事ができると、作業がずっと効率的で速くなります。
あらゆるビジネスにおいて「より速く、より安く、より良く」は昔からの真理です。受け入れ難い部分もあるかもしれませんが、誰もが少し納得はできると思います。
デジタルツールを使って作業を効率的にする事は、ある意味で望ましいことで良いことです。当然アートは時間がかかるものです。しかし、純粋に作業を速くする方法があるとしたらどうでしょうか。結局はそれがテクノロジーが進化している理由なのではないかと思います。