Toon Boom日本支社は、Toon Boomのソフトウェアと日本のクリエイターたちの関係にフォーカスしたインタビューシリーズ『Toon Boom Interview Files』の連載をスタートします。第1弾となる今回は、2022年春にTOKYO MX、BS11で放送されたTVアニメ『ヒーラー・ガール』の原案・監督を務めた入江泰浩氏のインタビューをお届けします。 入江氏が、「今作の肝であるミュージカルシーンの実現に大いに役立った」と語るように、彼の制作に欠かせないツールだった絵コンテソフトStoryboard Pro。本記事では『ヒーラー・ガール』の事例からStoryboard Proの可能性についてお聞きしました。 続きを読む »
キャラクターデザインとは?澤田圭さんに教えていただきました!
キャラクターデザイン(略してキャラデザ)は、特にアニメや漫画、ゲーム作品において非常に重要な要素です。キャラクターの外見や性格、そのほかの基本設定などを決め、その後の物語の展開でブレが生じないようにするのです。
何を隠そう、Toon Boom Animationのサイトを彩るキャラクター「ともちゃん」と「あにめちゃん」も、様々なキャラクターデザインのプロセスを経て、ゼロから制作されました。
そこで今回は、そんなともちゃんとあにめちゃんを作ってくださった、キャラクターデザイナーの澤田圭さんにお時間をいただき、キャラクターデザインの進め方や秘訣を伺います。
キャラクターデザインをメインに活動。
アニメーション向けのキャラクターから広告として使われる平面のイラスト、さらには3DCGを用いたフィギュアのデザインまでを手がける。また、日本だけでなく中国をはじめとする海外企業との仕事も行う。
公式サイト:http://keisawada.com/
インタビューに登場するアニメ制作ソフト『Harmony』は、無料体験版を配布中です。簡単な申し込みフォームで、今すぐに始められます。利用期限はありません!クレジットカード登録など、煩わしい手続きも一切不要 !ぜひ一度、まずはお試しください!
キャラクターデザインプロジェクトで、案件開始前にまず確認することはなんですか?
Toon Boom:本日はよろしくお願いします。
澤田さん:よろしくお願いします。
Toon Boom:早速ですが、キャラクターデザインのお仕事を引き受ける際に、まず案件が始まる前に確認する重要なことはありますか?
澤田さん:まず、どんな「媒体」で展開するのかを理解します。というのも、キャラクターを展開する媒体によって、デザインをする為のルールや制限が変わるからです。
例えば、そのキャラクターがTシャツで展開されるとして、シルクスクリーンで印刷されるとします。そうすると、シルクスクリーンは色数で価格が変わるので、キャラクターの色数を制限しなければなりません。
あるいは媒体が漫画の場合、白黒にした場合にどのように見えるのかを考えなければいけません。
もし、そのキャラクターをフィギュア化するのであれば、自立するような頭身バランスにしますし、ロゴに使うのであれば、名刺等の小さいサイズに印刷してもディテールがつぶれないよう単純化します。
このように、挙げればきりがないですが、展開媒体がわかるだけで、ある程度創るべき形が決まってきます。
これを「縛り」ととるか、「絞れた」ととるかはその人次第ですが、僕としてはこれが、あたまの中のおぼろげなキャラクターが徐々に浮かび上がってくる瞬間です。
Toon Boom:なるほど。ではアニメの場合、どんな縛りが思い浮かびますか?
澤田さん:例えば手書きのアニメの場合、たくさん描かないといけないので装飾を減らしたりしますね。それこそ市松模様のような衣装にしてしまうと容易に動かせなくなってしまうので、そういう点に気をつけます。
また、1枚絵で見たときと動いた時の違いを意識してデザインします。例えば静止画では表現できないようなことを表現できるようにします。
ともちゃんを例にすると、括った髪の先はアニメだと動く部分です。動く部分と止まっている部分を意識して描くと、動いたときに表現が豊かになるのではないかと思います。
澤田さんのキャラクターデザインの進め方を教えてください!
Toon Boom:媒体を把握したあと、さらに具体的な設定に進んでいくと思うのですが、普段澤田さんは、どのようにキャラクターデザインを進められますか?
澤田さん:そうですね、そのキャラクターを使って何をしたいか・伝えたいかという「目的」の部分を考えます。
例えば誰かを元気づけたいなら暖色を使って、分け与えられるくらい元気の有り余ったキャラに、真面目なことを伝えたいなら、情報が散漫しないよう色数を減らしてメガネをかけさせたり。
とにかく、受け取る側が見た瞬間に何を感じるかを考えます。
賢いからメガネ、運動が出来るからショートカットヘアなんて「ベタすぎる」と思われるかもしれませんが、僕は、ひと目見ただけで語らなくてもそのキャラの性格や背景を理解できるというのが、良いキャラクターだと考えています。
Toon Boom:確かに、漫画にしてもアニメにしても、限られた時間の中で読者や視聴者がキャラクターを理解して、すぐ物語に入り込めないといけませんもんね。
澤田さん:はい。また、目的の話でいうと、継続して毎日描く必要があるというような場合はそれを見越して楽に描き続けられるデザインにしなければいけません。子供に喜んでもらいたいキャラクターであれば、お子さんでも真似して描けるような単純なデザインにするとか、着ぐるみであれば、中に人が入り動き回るということを考慮したり。
無計画に描くのは楽しいですが「偶然可愛いキャラが描けたから、これを使って何かを展開したい!」というのは、デザインに説得力が無いので、多くの場合はうまくいかないです。
Toon Boom:それでいうと、ともちゃんのデザインでこだわられたところ、意識した目的はありますか?
澤田さん:ともちゃんの場合は、アニメ業界のことを学び、ブログを通して伝えていくという目的がありました。そこで、真面目で向上心があり、親しみ深さも感じられるキャラクターにしたかったので、学生服にしました。
また、Toon Boomのキャラクターということで、将来的にアニメーションになる可能性もありました。最初にも言った通り、アニメーションになる場合は、複雑すぎる衣装だと後々困るので、なるべくシンプルに特徴を表せるように意識しました。
Toon Boom:今回、ともちゃんとあにめちゃんを作るときにも、実際に描く前に、その辺りはディスカッションをしましたね。特にともちゃんがどんな女の子なのか?何を目指して、既存キャラだとどういう子が近くてどういう子が遠いかなどは話しました。
キャラクターデザインにおいて重要な3つの要素
Toon Boom:それでは次に、キャラクターデザインにおいて重要な要素を3つ挙げるとすると何があるか、教えていただけますでしょうか。
澤田さん:「目」はやはり重要です。アニメなどでは「虹彩のデザインだけで何のアニメかが分かる」とも言われるほど、目はキャラクターを象徴する特徴のひとつでもありますし、1番気持ちを表現出来る部分ですね。
逆に白目がなく黒丸だけで目を表す場合は、見る人に感情を委ねることができます。
例えばこれは、個展で展示した、目に特徴があるキャラクターです。
次に「シルエット」も大事です。キャラクターを黒く塗りつぶした場合でも、それがどんなキャラなのか分かるのがベストです。
特徴的な髪型であったり立ちポーズであったり服装であったり、ということですね。特にアニメのように動く場合、細部の装飾ではなく輪郭線を追うことになるので、シルエットで個性を確立するのは重要です。
こちらも以前制作した、シルエットが印象的な作品です。
最後は「色」です。ターゲットが日本に絞られますが、例えば赤はリーダー、ピンクは女の子、青はクール、黄色と黒の組み合わせは危険といったように、人は色に対して固定概念を持っています。
これをベタとしてそのまま活かすか、逆手に取って面白さを出すかは場合によりますが、わざわざ言葉で伝えなくても伝わる情報として、デザインに活用出来る武器のひとつとして考えています。
Toon Boom:ターゲットとする人の先入観って大事ですよね。主に日本人向けのキャラクターなら日本人の先入観を理解した上でデザインをしたり、逆に世界向けなら共通の常識が薄くなってくるので、別のところで特徴づけをしないといけない。
その意味では、澤田さんは日本でも世界でも仕事をされていますが、日本とそのほかの国でのキャラクターデザインの仕事って、どう違いますか?
澤田さん:基本的には自分の作品の作り方がブレないようにしたいとは思っています。ベストなのは、どこに行っても自分の画風が通用するという状態です。
例えばこれは、ハリウッドでも展開している僕のブランド『waga-ma-mind』のリュックをアメリカのファンの方が背負ってくれている写真です。
Toon Boom:これは嬉しいですね!アメリカの街に、澤田さんのパキッとしたデザインが映えますね!
澤田さん:ただ、確かに日本でないと伝わらない設定というのもあります。というより、世界にターゲットを広げるほど、NGが多くなると思います。そして、無難なデザインになりがちです。
日本と海外の違いで言えば、例えば日本では可愛いと思われるデザインでも、海外では「露出が激しく性的に見られる」と考えられる事があります。そうすると、せっかく描いた服を余分な布やエフェクトで覆うことになったりします。
あるいは中国のとある地域でお仕事をした時には、「緑と黒はお葬式の色なので使用はNGです」と言われました。
異文化にターゲットを向ける場合は、宗教や差別で日本に住んでいては予想も出来ない制約があることを理解していなければなりません。
Harmonyの気に入っているところ
Toon Boom:それでは最後になります。澤田さんは、Toon Boomのソフト『Harmony』をお使いいただいていて、今回のともちゃんとあにめちゃんのデザインにもHarmonyをご使用いただきました。そこで、ぜひHarmonyの気に入っているところを教えていただきたいです!
澤田さん:Harmonyは、なによりブラシの筆圧感がとても心地よいです。
色々とソフトを試してきましたが、他のソフトとは違います。一番心地よく描けます。口ではうまく表現できないけれど、筆圧の抜け方というか・・・。他のソフトだと、太い線を書いていたら急に細くなったりというのもあったけど、これはそういうことがありません。
Toon Boom:ありがとうございます!紙に描くのに近い感じですか?
澤田さん:うーん、僕はもともと紙では描きませんが、あえて言うなら筆ペンみたいな感じ?絵の具の筆とか。とにかく、自分が表現したいのを表現できます。
それに加えて、さっと描いた後の鉛筆エディターでの微調整が気に入っています。一度書いたものをまた編集できるのです。例えばPhotoshopだと、これはビットマップなので一度描くと編集できないんですけど、Harmonyはベクターなので、簡単に編集できます。
ベクターを売りにしている他の製品もありますけど、あまり使い勝手が良くありません。ベクターの自由度で、様々な書き出し方法が選べるのはHarmonyだけ。書き出してたファイルをAdobe Illustratorでパスとして再編集できるのも、とても便利です。
それに、Harmonyならベクターのまま書き出せるので、書き出してしまってから編集する事もできます。例えば、アニメ作品のキャラクターを作って納品してから、やっぱり大きいサイズの画像でポスターが作りたいとなった場合にも、Harmonyなら対応できます。
また僕は3DCGをよく使いますので、3Dモデルを取り込んだり、Harmonyで描いた平面イラストを3D空間で回転して配置が出来るのも魅力です。
正面から描いた絵を90度倒して床にしたり、背景を描き遠くに配置して手前のキャラにだけピントをあわせたりと、ジオラマを作っている感覚で画作りが出来ます。
Toon Boom:なるほど、ありがとうございました!
澤田さんにお話を伺って・・・
今回、澤田さんと一緒にともちゃんとあにめちゃんを作らせていただく中で、キャラクターデザインの奥深さを垣間見ることができました。
はじめの設定がきっちりと決まっているほどに、キャラクターそのものが勝手に成長していきますし、設定がよくないと後から問題が生じます。例えば澤田さんの言葉をお借りすると、キャラクターを使う媒体が定まっていないと、せっかく作ったキャラクターなのに、「使い勝手が悪い!」となってしまいます。
非常に勉強になる経験をさせていただきました。ありがとうございました。
さて、こうして、ともちゃんとあにめちゃんは誕生しました。これからは彼女たちが、Toon Boomブログやソーシャルメディアアカウントでどんどん成長していく様子を、どうぞみなさまお楽しみください!