Toon Boom日本支社は、Toon Boomのソフトウェアと日本のクリエイターたちの関係にフォーカスしたインタビューシリーズ『Toon Boom Interview Files』の連載をスタートします。第1弾となる今回は、2022年春にTOKYO MX、BS11で放送されたTVアニメ『ヒーラー・ガール』の原案・監督を務めた入江泰浩氏のインタビューをお届けします。 入江氏が、「今作の肝であるミュージカルシーンの実現に大いに役立った」と語るように、彼の制作に欠かせないツールだった絵コンテソフトStoryboard Pro。本記事では『ヒーラー・ガール』の事例からStoryboard Proの可能性についてお聞きしました。 続きを読む »
『GODZILLA 星を喰う者』副監督「Storyboard Proがないと、クオリティが出せない」
2018年11月9日に公開した『GODZILLA 星を喰う者』。その副監督を務めた吉平“Tady”直弘さん(ポリゴン・ピクチュアズ)は、Toon Boonのデジタル絵コンテ作成ツール「Storyboard Pro」の愛用者だそう。今回、『GODZILLA』シリーズの制作過程でどのような役割を果たしたのかを伺いました。
『GODZILLA』三部作は、ゴジラシリーズ初となる長編アニメーション映画作品。今回、お話を伺った吉平さんは、『GODZILLA 怪獣惑星』では演出を担い、『GODZILLA 決戦機動増殖都市』からは副監督としてシリーズ三部作すべてに関わっています。副監督に着任後は絵コンテの制作も担当し、『GODZILLA』の制作をその土台から支え続けてこられました。
「Storyboard Proがないと、クオリティが出せない」とまで語る吉平さん、その真意とは?
この記事の内容
ゴジラ初となるアニメ表現の制作秘話
ー まずは11月9日公開の『GODZILLA 星を喰う者』の見どころを教えてください。
吉平さん:映画のポスターからも想像して頂けると思いますが、やはりギドラとゴジラ・アースのバトルシーンですね。三作目にしてとうとう「怪獣対怪獣」という映像を描くことができた。圧倒的なスケールを目指したので、ピュアに楽しんでいただけると思います。
ー 予告動画でギドラが登場した時、興奮しました。
吉平さん:そういっていただけるとうれしいですね(笑)。ただ、怪獣同士の戦いだけでなく、虚淵の脚本が持つ深いテーマ性や哲学的な投げかけにも注目してみてください。人間ドラマとしても豊かですし、大人の方も楽しんでもらえる作品になったと思います。一・二部を観られた方には、ハルオの運命がどうなっていくのか、その結末をぜひ見届けてほしいですね。
ー 『GODZILLA』三部作は、ゴジラシリーズ初のアニメ映画化でした。吉平さんにとってどのような意味をもっていましたか。
吉平さん:僕自身、ゴジラシリーズのファンで、子どものころからずっと見ていた作品なんですよ。でも、アニメ化するということは、特撮でのゴジラの表現とはまったく違ったものになる。それに、東宝さんからも「新しいゴジラを作ってほしい」と言われていたので、まずは「ゴジラだったらこうだよね」という先入観を捨てることからはじめました。
ー ゴジラファンだからこそ、難しい注文ですね。
吉平さん:特撮のゴジラはもちろん、ハリウッド映画やレジェンダリーなどのアメリカ版も含めて、ゴジラがどう描かれてきたのかを調べました。往年のゴジラへのリスペクトは残しつつ、真っ白な気持ちで新しいゴジラを考える作業です。とにかくアニメで一番かっこよくゴジラを見せる方法ってなんだろうかと模索し、その中でSFアニメとしてゴジラを描いたらどうなるのか、そんな構想が一気に盛り上がったわけです。
ー プロジェクト初期の制作工程で、苦労した点はありますか?
吉平さん:一作目では、やはりゴジラの表現に関してなかなかOKが出なかったです。アニメという仮想空間の中で、重厚感を感じられるリアルな生物として設計するのが本当に大変でしたね。ゴジラは非常にスケールが大きい存在ですから、その大きさ故に、遠くから見るとかっこよく映るけど、近くで見ると視界に姿の一部しか映らず、その全体が把握できないので、どうしてもスケール感が損なわれてしまうんです。ゴジラのスケール感を生かしつつ画角に入れるにはどうしたらいいのか、すごく悩みました。ちょうど東京タワーが近しいサイズだったので、実際に足を運んで「これが近づいてくるんだよなぁ」と想像力を働かせたりしましたよ。
ー ゴジラ・アースは、シリーズ最大の大きさですものね。
吉平さん:あと大変だったのは、ゴジラの皮膚ですね。細かな凹凸を表現するのに、シェーダー(陰影処理を行うコンピュータプログラム)を新たに開発しなければならず。この技術は、去年のSIGGRAPHで技術論文としても提出されたほどです。ただ、いずれも苦労というよりかは、チャレンジしがいのあることでした。アニメだったらこんなことができるんだぞ、という思いが先行していたので、わくわくしていましたね。
ー 制作チームの思いが、作品にも表れているように思います。
吉平さん:新しいカテゴリのアニメ表現を作るんだ、という思いでやってきましたからね。僕自身としては色彩表現にこだわり、これまでのセルルックアニメにはなかった光源表現をキャラクターに追加してみたり、SFの世界なんだという風に感じられるような仕上げを意識しました。結果的に、新しいゴジラの表現に繋がったと感じています。
ー 怪獣映画の金字塔を、アニメでかつSFでやるというのは驚きでした。
吉平さん:特撮のゴジラシリーズは、構想や撮影に制約が多かったと思うんですけど、今作では想像力と遊び心をフルに使って、イマジネーションのままに画を創造することができました。新しいゴジラを作り出すうえで、制約を受けずに最適な方法を自分たちで選べたわけです。その意味で、SFという設定が活きたという実感はありますし、そもそもSFアニメでやるという風に設計した監督陣の思想が素晴らしかったなと思いますね。
紙とデジタルを両立した『GODZILLA』の絵コンテ
ー 『GODZILLA』シリーズでは、弊社の「Storyboard Pro」をどのように使用されたのでしょうか。
吉平さん:絵コンテを完成稿にしていくまでのすべての作業を「Storyboard Pro」で行っています。コンテ制作の工程は、プロダクションによって異なると思うのですが、一般的には紙の絵コンテ、それを撮影したビデオコンテの2つがあると思うんです。『GODZILLA』ではこの両方を「Storyboard Pro」で一元管理して、各チームやアーティストにデータを配布しました。ビデオコンテには、プレスコアリングした声優さんの声を載せ、編集点や撮影用のラフなカメラワークも取りまとめています。
ー 絵コンテの作成も「Storyboard Pro」で行われたのでしょうか。
吉平さん:正確にお伝えしますと、絵コンテを担当するアーティストの方に応じて切り分けています。「Storyboard Pro」を持っていて「それで描いてもいいよ」という方には、「Storyboard Pro」での絵コンテ作成をお願いしました。一方で、紙が主戦場の方には、無理にデジタルにしていただくんじゃなくて、紙で内容がいいものを描いてくれたら、そこから先はこっちで引き取るので任せてくださいと。ツールありきでお願いするんじゃなくて、作品の質ありきで、こちら側が働き方を変えればいいと思っています。
ー なるほど。紙の絵コンテはどのように扱うのですか。
吉平さん:紙でいただいた絵コンテも、弊社スタッフによって、「Storyboard Pro」に取り込みます。僕らはこの作業を「トゥーンブーム化」と呼んでいました。紙とデジタル双方の絵コンテを取りまとめた後に、プレスコの音をプロジェクトに追加します。完成したコンテをデータとして編集チームに出荷して、社内のデータベースやパイプラインに受け渡し、カット情報や作業タスクをアニメーターに振り分けています。各部門からできあがってきたテイクは、編集のタイムライン上で、ビデオコンテから映像に自動で置き換わっていくんです。アナログの絵コンテを取り込むのは手間がかかるように思うかもしれませんが、後々のフローの効率化やコンテからプロダクション用のマスターデータを作成するという意味で合理的です。
ー 最新のコンテを、遠方にいるアニメーターと共有できるのは「Storyboard Pro」の強みだと思います。
吉平さん:絵コンテを紙で管理していたころは、カットを少し入れ替えるだけでも紙を切り貼りする必要がありました。「Storyboard Pro」であれば、タイムライン上でカットを動かすだけでそれができる。これだけでも本当に幸せです(笑)。実際、ビデオコンテまで進む工程で「やっぱりここはこうしたほうが良いよね」というようなアイデアはたくさん出ていたのですが、以前は再検討や修正がしづらかったんです。変更に伴う情報共有に多くの時間を割く必要がありましたからね。
ー より具体的には、どのような問題があったのですか。
吉平さん:たとえば、紙のコンテが編集に進んだ後に修正が入る場合もあるので、全体を見直そうと思っても、自分の手元にある紙のコンテと、最新のビデオコンテがズレてしまっているという状態もあった。こうなると、アーティストもディレクターも混乱してしまい、クオリティを保てなくなってしまいます。「Storyboard Pro」では、ビデオコンテまでの工程をすべて一括で行い、最新の状況を共有し合えるので、情報の正誤はもちろん、一つひとつの作業にマンパワーがかからなくなりましたね。
吉平さん:これはタイムライン上に取り込んだ本物の絵コンテです。音声編集も映像編集も全部一緒にやっています。つい夢中になって、ずっと作業できちゃうんですよ(笑)
ビデオコンテを作るだけのツールじゃない
ー 作品のクオリティにも影響を与えているのですか。
吉平さん:「Storyboard Pro」はビデオコンテが作れるだけのツールじゃなくて、作品のクオリティを上げるための分析がしやすいツールだと思います。僕自身のワークフローとしては、紙で頂いた絵コンテをまず紙上でチェックしています。で、紙上で気になったことを「Storyboard Pro」上で書き残しておいて、その後ビデオコンテをチェックし、今度は動画として気になったところをリストアップしています。紙とビデオコンテの両方を反映した修正稿を出して、各自にフィードバックするんです。
ー それが分析に役立つのですか。
吉平さん:ハリウッドだとストーリーボードをばーっと壁に貼ったりするんですけれども、それと同じように、「Storyboard Pro」の作業上ですべてのサムネイルを俯瞰的に見ることができるんですよ。全体を通じてカットワークが退屈になっていないか、あるいは色彩構成やテンポに問題がないか、PCの画面ひとつでストーリーボード自体を練り上げることができる。実作業としても、カット順を入れ替えることも簡単だし、僕一人で4テイクも5テイクも重ねながら修正稿をブラッシュアップできますしね。
ー 「Storyboard Pro」を使う前と、その後ではかなり差があるようですね。
吉平さん:俯瞰的な作業だけではなく、ラフコンテや文字コンテを作る工程でも使っています。たとえば、「ここは顔のクローズアップです」「ここはアクションシーンがほしいです」みたいな字コンテを後書きしたり、音付きの字コンテを書き加えたり、さらにその絵をクリーンアップして仕上げていくみたいなことも「Storyboard Pro」でやっています。一言で言えば、「Storyboard Pro」を使用する前に比べて、ノンリニアな映像制作が可能になったと思います。僕はもうすべての作品を「Toon Boon」で作ると思う(笑)。
吉平さん:「これはCGを使った絵コンテです。たとえば、ハルオ側とメトフェイス側両方のカメラワークを撮影し、どちらのカットワークがいいかなとか、複雑なシーンを設計しやすい。これをCGだけでやるとそれなりに時間かかるんですけど、即座にテストできるんです」
ー 心強いお言葉をありがとうございます(笑)。機能面で便利だと感じている点はありますか。
吉平さん:「Storyboard Pro」には録音機能があるんですが、これはすごいありがたい機能ですね。たとえば絵コンテ上で、セリフがちょっと足りないなと感じたときに、これまでは声優さんに追加で依頼することになるので諦めていたものがあったのですが、自分の声で即座に追加することができるようになったんです。このカットワークが最適なものなのか、音声表現も含めてジャッジしやすくなりました。コンテを編集していると、「ここで一言セリフを言わせたい」「ここで感情を爆発させる一言がほしい」という瞬間があるのですが、それがサッとできるのはありがたいですね。
ー それは吉平さん独自の使い方でしょうか。
吉平さん:いえ、僕だけではなく、ポリゴン・ピクチュアズがストーリーボードを作る上での個性というか。プレスコも含めて、ユニークな手法のひとつになっていると思います。また、音声ごと編集データを出力できるので、その後の工程を担うチームもシーンのイメージがしやすく、クオリティに繋がっています。ただし、音声を吹き込む僕の演技が、どんどん上手くなっていくという事態も起きていますが(笑)。
ー 副作用ですね(笑)。音声を含めたコンテデータの出力は便利だと評判です。
吉平さん:「Storyboard Pro」は、情報のデータベースの役割も担っているんですよね。たとえばですが、セリフだけをCSVファイルとして書き出し、そのまま音響会社に送ってセリフや台本の修正をしていただいたり、音声編集した結果を最終的に編集さんや音響さんが使えるようなXML/AAFデータとしても共有できたり。データをやりとりするハブになっています。
ー 情報共有のコストが下がるわけですね。
吉平さん:はい。情報共有のストレスが減る分、クリエイティブの思考を途切れさせずにプロジェクトを進行できるのは、このツールを使う大きなメリットだと思います。
ー 褒めてくださっているなか恐縮ですが、いちユーザーとして「Storyboard Pro」の不満点や改善点があれば教えてください。
吉平さん:バージョンアップを重ねるごとに不満点は少なくなっていますね。強いて言えば、ショートカットキーはもっとほしいかな。できるだけ手を離さずに作業ができるようにしたいので、究極は画面だけを見ながらすべてのアクションができるぐらいにショートカットキーが充実していれば、本当に映像のことだけを考えて作業ができると思います。
ー 貴重なご意見、ありがとうございます! Storyboard Proのショートカットは、クリエイター自身が追加できるようになっておりますので、そちらもぜひお使いください!では最後に、今後も「Storyboard Pro」を使っていただけますでしょうか?
吉平さん:もちろんです。自分の作業時間のなかで「Storyboard Pro」を開いている時間がどんどん増えていることを実感しています。作品を本当にブラッシュアップしていくためには、コンテやストーリーボードを練り上げることは大切な工程です。CGに限らず映像作品は、何度も何度もブラッシュアップすることで良くなっていきますよね。それと同じく、コンテも試行錯誤されていくべきだと思うんです。なぜなら、コンテは作品を映像で語るための最初の重要な設計ですから。そういった点でも「Storyboard Pro」は必須のツールで、もうこれがないとコンテのクオリティが出せないんじゃないかと思っています。このツールがないと辛い。もう、ないと辛いですね(笑)。
ー 本日は、ありがとうございました!
インタビューを終えて
吉平さんへの特別インタビューはいかがでしたでしょうか?
Toon Boomの製品は、今も日本のさまざまなアニメシーンで使われており、今後もご使用いただいた方への特別インタビューを随時掲載予定です。次回もぜひご覧になってくださいね。
なお、映画『GODZILLA』シリーズにも使用された弊社のStoryboard Proは、無料かつ期限を気にせずご利用いただける試用版を配布しております。ご興味をお持ちいただけましたら、下記のダウンロードリンクからソフトをダウンロードしてみてください!
ダウンロードリンク
https://store.toonboom.com/ja/downloads/try/551
プロフィール
吉平“Tady”直弘(よしひら ただひろ)
1999年、ポリゴン・ピクチュアズに入社。CGアニメーションの編集、合成、フィニッシングを専門分野とし、数多くの作品に携わり高い評価を得ている。その一方で2015年にはテレビシリーズ『シドニアの騎士 第九惑星戦役』で副監督を務め、2017年には劇場アニメ『BLAME!』で副監督兼CGスーパーバイザーとして従事。アニメーション映画『GODZILLA』三部作では、『GODZILLA 怪獣惑星』では演出を、『GODZILLA 決戦機動増殖都市』・『GODZILLA 星を喰う者』では副監督として関わるなど、現場をとりまとめる責任者としての才能も発揮している。