Toon Boom日本支社は、Toon Boomのソフトウェアと日本のクリエイターたちの関係にフォーカスしたインタビューシリーズ『Toon Boom Interview Files』の連載をスタートします。第1弾となる今回は、2022年春にTOKYO MX、BS11で放送されたTVアニメ『ヒーラー・ガール』の原案・監督を務めた入江泰浩氏のインタビューをお届けします。 入江氏が、「今作の肝であるミュージカルシーンの実現に大いに役立った」と語るように、彼の制作に欠かせないツールだった絵コンテソフトStoryboard Pro。本記事では『ヒーラー・ガール』の事例からStoryboard Proの可能性についてお聞きしました。 続きを読む »
【翻訳記事】世界から見た『天気の子』に関する5つの事実
新海誠監督の最新作『天気の子』 は7月19日の公開以来、日本国内で大ヒット公開中です。さらに今後、世界中でも大ヒットとなることが予想されています。
すでに国内映画興行収入が120億円を超えたこの作品は、9月8日に開催されたトロント国際映画祭(TIFF)にて北米で初めて上映され、2020年の初めにはGKIDSの配給で北米での一般公開が決まっています。
今回はそんな『天気の子』に関するToon Boom本社ブログの記事をほぼそのまま翻訳する形でご紹介いたします。まだ『天気の子』未公開の北米からの視点で、新海監督の最新作に対してどのような期待が募っているか、参考になれば幸いです。
『天気の子』は、2016年の大ヒット作『君の名は。』の精神を受け継いでいます。スタジオ・ジブリの『千と千尋の神隠し』が中国で2019年に再公開されるまで、『君の名は。』はアニメおよび日本映画で世界最多の興行収入を上げた映画でした。『君の名は。』も『天気の子』も、ともに全てのサウンドトラックを日本のバンドRADWIMPSが作曲しています。また絵コンテ(ストーリーボード)制作には、Toon Boomのプリプロダクションソフト『Storyboard Pro』が使用されました。—このソフトは、映画監督および脚本家がプロジェクト用の絵コンテをスケッチし、計画し、洗練させる作業を、単一のツールによってすべて行うことができます。
前作の『君の名は。』から引き続き、東京の街を描いたアニメーション、および幻想的で写実主義的な描写が目を奪う素晴らしさであることは驚くには当たりません。フォーブズの批評家オリー・バーダー レビューは「新海誠の他の作品のように、この新作映画のアニメーションは驚異的であり、独創的な方法で東京の描写に生命を吹き込んでいる。(英文)」と言っています。アニメ・ファンならおなじみの、監督の驚異的な背景や建物は、現実の場所に忠実な描写が行われ、一部は作品のシナリオでも極めて重要な役割を果たしています。
そして、これもやはり『君の名は。』と同じように、新作映画も、超自然的な要素を背景に少年と少女の出会いの状況を追っています。『天気の子』では、高校の新入生森嶋穂高 が、小さな島の町を抜けだし、陰鬱で暗い東京へとやってきます。たちまち無一文になった彼は、孤独な路上生活を始める。—ある日、雲を晴らし、雨を止める力がある同い年の少女、天野陽菜と出会います。
それでは、ここからは『天気の子』についてさらに詳しく見ていきましょう。
ソース: GKIDS
『天気の子』について知っておきたい5つの事実
1.『天気の子』の興行収入は『君の名は。』を越えた
・・・しかも国内公開からわずか3日間でのことでした。新海誠の最新の長編映画は、115万人の観客を動員し、日本での最初の週末の興行収入は16億4000万円(1500万ドル)にのぼりました。これは2016年の前作に対し28パーセント増加しています。—前作と比べ公開館が21パーセント増加し、スクリーン数が49パーセント増加したことも理由のうちでしょう。さらに、前作の人気もこれを後押ししています。
世界中で3億6100万ドル以上の総収益を上げた『君の名は。』は、日本の映画ランキングで断続的に12週間1位を獲得しました。ハリウッド版実写リメイク作品の制作も、パラマウントおよびJJエイブラムスのバッドロボットプロダクションカンパニーによって計画されています。監督は、『アメージング・スパイダーマン』のマーク・ウェッブです。
2.『君の名は。』への批判は新海誠の創造的な過程に影響を及ぼした。
『君の名は。』が国内・世界の興行収入で大ヒットを収め、世界のアニメファンに支持された一方、映画の批評家からも意見が上がりました。新海誠は、居酒屋で映画について批判的な声を聴いたり、道でそういった声を聞いたり、家族とテレビをつけると有名人が作品を誹謗するのを見るようになったと言います。この経験が、『天気の子』にも影響しました。
監督はジャパン・タイムズの取材に対し、「私は自問しました。『私は、批評家が支持する映画を作るべきかあるいは批評家がさらに嫌う映画を作るべきか』」と話しています。 運良くも、彼は後者に決めました。
彼は、「批評家がさらに強く反応する映画を作る必要があると考えました。」と言います。『君の名は。』への嫌悪を通じて、実際に私が何がしたかったかをより理解できました。」重いストーリーの『天気の子』は、 人間の気候変動への影響をためらわず扱い、また個人的な欲求が社会的な欲求よりも重要になりえるかを扱っています。
3.『天気の子』絵コンテに使用されたStoryboard Pro
『君の名は。』でもそうだったように、『天気の子』も、Toon BoomのStoryboard Proが絵コンテおよびビデオコンテの制作に使用されました。この業界標準のソフトウェアを以前から使用してきた新海誠にとって、このソフトウェアは最新作でも唯一で最良の選択でした。—特に描画ツールと、カナダの会社およびカスタマーサクセスディレクター、マリー=イブ・シャトランから受けたサポートは優れたものでした。
「Storyboard Proで一番気に入っているのが、描画時の描く動作がすごく軽いところです。他の画像編集ソフトで描くよりStoryboard Proで絵を描く時の方が気持ち良かったりします。」と新海誠は言います。(こちらの記事『STORYBOARD PROには絵コンテに必要な機能が過不足なく入っている【新海誠監督インタビュー】』からStoryboardについての全インタビューをお読みいただけます。)
監督は、Storyboard Proの「紙を使ったアニメ制作のパイプラインと同じようにカスタマイズできる描画ツール」や「編集の容易さ」および「製作チームとの共有を容易にするオーディオ付のビデオコンテ」のような効率的で創造的な利点が、気に入っていると言います。
4.東京の「アニメーション化」
東京を訪れたり、住んだりしたことがある人にとって、『天気の子』にはおなじみの場所が多く登場します。 ロケハンには2か月程度かかったそうです。新宿のタワーから、東部の神社、東京湾の近くのエリアなど、日本の都市のすべてを捕らえる骨の折れるディテールが、映画のプロットに多大な役割を果たします。
ジャパン・タイムズによれば、新海誠は、アニメーションのディテールが見る人を物語に、より深く結び付けるとしています。彼は、「あたかもこれが今まさに私たちの世界の中で起こるものかのように観客に感じてもらえることを望みます。」と言います。「それは、我々と全く関係のないフィクションではありません。—それは今ここで起こっています。」
『君の名は。』の中で描かれた明るくキラキラとした素晴らしい東京の通りとは対照的に、『天気の子』は、暗く湿った天候と感情の両面で陰鬱な街です。映画で最も重要な建物の1つは、代々木会館という現実に存在する非常に古い建物です(本日本語を記事公開時点で、すでに取り壊し工事が開始されています)。—ただし実際の建物の屋根の上には神社はありません。
ソース: GKIDS
5.この映画は、20年以上ぶりの日本アニメのオスカー有力候補です
アメリカの配給会社GKIDSは、2019年に 『天気の子』で賞レースに参加し、2020年2月9日に発表される次のアカデミー賞の最優秀外国長編映画カテゴリーに日本の映画としてノミネートされました。 アニメ作品がノミネートされたのは、1998年の宮崎駿およびスタジオ・ジブリの『もののけ姫』以来となります。
新海誠監督のほかに、 『天気の子』のオスカー挑戦を、プロダクション会社Story Inc. とアニメーション・スタジオCoMix Wave Filmsも祝っています。 チームにはさらにプロデューサーの川村元気 、キャラクター・デザイナーの田中 将賀(『君の名は。』にも参加)、作画監督の田村篤および美術監督の滝口比呂志が参加しています。