Toon Boom日本支社は、Toon Boomのソフトウェアと日本のクリエイターたちの関係にフォーカスしたインタビューシリーズ『Toon Boom Interview Files』の連載をスタートします。第1弾となる今回は、2022年春にTOKYO MX、BS11で放送されたTVアニメ『ヒーラー・ガール』の原案・監督を務めた入江泰浩氏のインタビューをお届けします。 入江氏が、「今作の肝であるミュージカルシーンの実現に大いに役立った」と語るように、彼の制作に欠かせないツールだった絵コンテソフトStoryboard Pro。本記事では『ヒーラー・ガール』の事例からStoryboard Proの可能性についてお聞きしました。 続きを読む »
再生回数52万。Harmonyで作画された美しい中国アニメの制作裏話。
Toon Boomのソフトウェアを活用して作品を制作しているToon Boomアンバサダーの中から、今回は、カリフォルニア芸術大学でキャラクターアニメーションを勉強中の学生、キュリー・ルーさんに行った本社のインタビューを翻訳します。
ルーさんは、学校の課題で制作したはじめての映像作品を、昨年4月に自身のYoutubeチャンネルに投稿しました。印象的なキャラクターや光の効果、細かなブラシの線画が特徴的なこの90秒の作品『Spring Herald』は、2020年4月時点で再生回数52万回を超える人気となっています。
Harmonyで制作されたこのプロジェクト。制作中にルーさんが苦労したポイントや使用したツールについてお話を伺いました。
一番苦労したのは、主人公が龍に乗った最初のカット
ー 今回の作品『Spring Herald』の着想はどこから得たのでしょうか。
もともとは、私のアニメーションを見たことがない祖父母のために何か作りたかったのです。中国系アメリカ人として育った私と、祖父母の間には言葉の壁があるので、彼らが親しみやすい中国文化をテーマにした映像を作りたいと思って制作しました。
また私自身も中国の民話や神話に興味をもっていたのもあります。中国の文化では、龍は自然の力、特に雨や雷といった自然現象を象徴する存在なんです。
学校の初年度の映像課題は90秒に制限されていて、複雑なストーリーは描けないため、まずは美しさで見る人を楽しませる映像を作ろうと思いました。
ー この映像の中で、芸術面や技術面で、もっとも難しかったところはどこでしょうか。また自分なりに誇れる部分などはありますか。
一番大変だったシーンは、主人公が龍に乗った最初のカットです。それまで、龍やヘビのような生き物の動きをアニメーションにしたことがなかったので、最初、この架空の生き物がどう動くのか想像しながら描かねばならなくて、とてもフラストレーションがたまりました。
ありがたいことに、私の彼が過去に龍の動きのアニメーションを制作した経験があったので、彼からアドバイスをもらい動きチェックしてもらって、いい動きを作り出せたと思います。
改めて映像を見てみると、あちこちに粗が見えてしまいますが、それでもよくやったなと思える部分を挙げると、龍が回転しながら橋の下をくぐり抜ける長いカットでしょうか。このシーンは、何度もやり直した部分なんですが、背景や滝のエフェクト、龍の動きなど、全てがすごく難しかったのですが、やりがいのあるシーンでした。
Harmonyを使った緻密な個人制作を可能にした、ステップバイステップのワークフロー
ー この映像の制作には8ヶ月かかったそうですが、制作工程はどうでしたか。
私はちょっとせっかちなタイプなので、この映像はカット毎に完結させるように制作しました。1つのカットを完全に仕上げてから、次のカットに移るというような進め方です。その方が、ひとつの終わりが見えて達成感が得られたんです。
背景を描いて、アニメーションを作り、色付けするという一連の作業を、ローテーションで回していくことで、8ヶ月間の作業の間に、悪い意味で燃え尽きないで制作ができたと思います。コンテ作りやアニマティックの制作をできるだけ早く終わらせたんですが、それも制作スケジューリングが初めてで、まだペースがつかめなかったからだと思います。
ー 制作過程の公開映像では、クリーンナップや色付け作業などいろんな工程を紹介していますね。Toon BoomのHarmonyの、どのツールを使用したのでしょうか。また、この制作で学んだツールはありますか。
アニメーションとクリーンナップ作業には、ビットマップレーヤーで、カスタマイズした鉛筆やブラシツールを使いました。Harmonyでは、ノードビューやエフェクトの他に、ブレンドや合成といった基本的な機能も使い慣れてきたと思います。
自分のアニメーション作品の見た目をより伝統的な雰囲気にするために、まだまだ苦労しているところなので、ここでご紹介できるような豊富な知識や経験はまだありません。ただ、いくつかあるアニメーション制作ソフトの中でも、私の場合、Harmonyの鉛筆やブラシツールは特に役立っています。この数年、Harmonyのブラシ機能のシステムは継続的にアップデートされていて、より使いやすくカスタマイズがしやすくなっていると思います。
制作に欠かせなかったOLMのカラーキープツール
ー 手描きで光の濃淡を出すアニメーション作りに興味があるアーティスト達に、なにかアドバイスはありますか。
この映像を制作した当時は、合成についての知識があまりなかったので、それぞれの色の影を個別に描いていたので、余計な時間がかかってしまいました。
反転させたカッターノードを使って、影の領域を全て別のレイヤーに1色で色付けし、それをAfter Effectsにエクスポートし、OLMのカラーキープのツール(OLMのサイトから無料でダウンロード可能)でそれぞれの影に色付けする方が速いことを後に学びました。
こうした他のソフトウェアとの連携を含め、Harmonyにはノードビューやライブラリなど非常に多くの機能があるので、まだ学ぶべきことがいろいろあるなと感じています。
ー Youtube投稿後、『Spring Herald』に対する反応はいかがでしたか。
概ね好評で、海外の方にも観ていただけて良かったです。
遊び心で入れたポケモンのキャラクターについて、多くの方がコメントをしてくださっていました。この映像を映像フェスティバルに出品しようとすると、法的な問題が発生するので、本当は入れるべきではなかったと思うんですが、すごく可愛くて、どうしても私の作品にこっそり登場させたかったんですよね。
多くの方がこの映像を観てすごく満足してくださっていたので、今後も引き続き、数分の短い映像でもいいので、皆さんが楽しんで喜んでくれるような映像が作れたらいいなと思っています。
ー 次に取り組んでいるプロジェクトはありますか。
今は、Harmonyを使って4分ほどの映像を作っています。2021年の頭には完成する予定で、もっといろんなアクションやストーリーが展開する作品になります。
中国をベースにした映像にするつもりはなかったんですが、昨年の夏に重慶にある古い街を訪れたことでインスピレーションを受けたので、今回も中国文化の映像になります。
私のSNSでも、完成したカットをいくつか公開していますので、ぜひ見てみてください。
— Curie Lu (@lu_curie) February 6, 2020
キュリー・ルーさんの作品は、彼女のWebサイトや、Youtube、InstagramやTwitterなどでもチェックできます。