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GKIDS社長が語る『天気の子』の魅力、そして世界から見た10年後の”日本アニメ”【インタビュー】

アメリカ・ニューヨークを拠点とするアニメ映画配給会社GKIDSは、これまで世界中の多くのアニメーション作品を北米に届けてきました。

アメリカ国内では、『スタジオ・ジブリ・フェスティバル』や『アニメ・イズ・フィルム・フェスティバル』を主催しており、特に今月開催される『アニメ・イズ・フィルム・フェスティバル』では、10月18日にハリウッドのTCLチャイニーズ・シアターにて、新海誠監督作品の『天気の子』をフェスティバルのオープニング作品としてアメリカ初上映します。

『天気の子』は、日本国内と世界で大ヒットとなった『君の名は。』に続く作品で、どちらの作品も、新海監督がToon Boomの絵コンテ制作ソフト『Storyboard Pro』を使い制作したものです。新海監督自身も『Storyboard Pro』の使用感については、他の画像編集ソフトにはない描画の心地良さを以前のToon Boomの独占インタビューにて述べられています。

海外のマーケット拡大により、現在の日本のアニメ作品市場は2兆円を超えていますが、GKIDSはこうした日本のアニメ作品を世界に売り込む上で重要な役割を果たしており、海外の観客に届けるだけでなく、アニメ作品を映画業界へ広めることにも貢献しています。

『天気の子』は、2020年にアメリカで開かれる第92回アカデミー賞の国際長編映画賞部門の日本代表作品として選ばれています。この部門にアニメが選ばれるのは『もののけ姫』以来22年ぶりで、日本国内外でもノミネートの動向に注目があつまっています。

今回Toon Boomは、GKIDS社長のデビッド・ジェステアト氏にインタビューを行い、日本のアニメ作品の世界における成長について、そして『天気の子』を『アニメ・イズ・フィルム・フェスティバル』のオープニング作品に選んだ理由、そして、果たして新海誠監督が次なる宮崎駿になるのか!?といったお話を伺いました。

GKIDS社長デビッド・ジェステアト氏 インタビュー

ー トロント国際映画祭での『天気の子』世界初上映、おめでとうございます。観客の反応はいかがでしたか。

デビッド・ジェステアト氏(以下DJ):素晴らしかったですよ。初日のチケットは完売してしまったんですが、2日後の2回目の上映の際は、会場中が熱気と興奮に満ちていましたね。新海監督作品ファンも多く会場に来ていました。私達は初上映前の数週間に、技術上のチェックのために、空っぽの上映室で何度もこの作品を観てきたんですが、観客の皆さんが私と同じ様にこの作品に惚れ込んでくれたのを見て、とても安心しました。

ー 新海誠監督と『天気の子』の魅力はなんでしょうか。

DJ:『秒速5センチメートル』の作品以来、私は新海監督のファンなのですが、彼が手で描くイメージの繊細さのレベルに度肝を抜かれた事を思い出します。私達は、写真的なCGアニメに慣れてしまって、コンピューター・グラフィックスの技術力の進化にそれを求めてきました。しかし、手描きでその写実性を求めるのは、正気のことではありません。新海監督の仕事には、それよりもずっと上のレベルの職人技が見られます。また、彼の作品は登場人物の性格にも焦点をおいて、その人物のペースに合わせたストーリー作りがされているのも素晴らしさの1つです。それにより観る側は感情的に深く作品とつながる事ができます。

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ソース: GKIDS

ー 北米の観客もそのように感情移入する事ができると思われますか。

DJ:北米の観客も、新海誠監督が『君の名は。』のような草分け的な作品を、どのように追求して作り上げたのかということに興味を持つだろうと思います。『君の名は。』が成功したように、『天気の子』の作品の様々な点に驚くでしょうし、感動するでしょう。

この映画には、私達が生きる時代を象徴するテーマが多く盛り込まれています。上の世代の影の中に生きる事を拒みながらも、すべてが曖昧で過ぎ去っていくこの時代にどう意味をもって生きていくのか、そして若い世代が犠牲になり背負わされた大きな課題など、観る側に多くの気づきを与える美しい作品です。日本の観客たちがそうであったように、北米の観客たちも、この作品に対して強い感情を抱くのではないかと思います。

ー 北米の観客といえば、今回『天気の子』が『アニメ・イズ・フィルム・フェスティバル』のオープニング作品に選ばれていますが、それはなぜでしょうか。

DJ:『アニメ・イズ・フィルム・フェスティバル』の目指すものはとてもシンプルです。アニメの意義を広め、アメリカのメディアや映画業界、観客に、アニメという媒体の可能性を知ってもらう事を目的にしています。アニメは「子どもが観るもの」と軽視されがちですが、実際は大人も子どもも楽しめるアニメ作品がたくさんあります。このフェスティバルでは、大手の制作スタジオによる大型作品から、1人のアニメーターが手掛ける小さなインディー作品まで、幅広い範囲の作品を紹介します。

そんなフェスティバルにおいて、自国内での実績や、アニメとストーリー両方の質からも、『天気の子』はオープニング作品として非の打ち所がない素晴らしい作品です。この作品は、その大きなテーマやアイデア、可能性、そして今なお行われている本当のアニメ制作の進化を示すものとして、全てにおいて私たちがワクワクするものを持った作品なのです。

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ソース: GKIDS

ー 新海監督が“ポスト宮崎駿”と呼ばれているのはどう思われますか?

DJ:“ポスト宮崎駿”に関する議論には、加担したくないんです。なぜなら、宮崎駿はずっと宮崎駿なのですからね。特に彼は未だに作品づくりをしていますし、彼は唯一無二の並外れた才能を持ったクリエイターです。しかし、この議論が本当に見出そうとしているのは、日本の次世代のアニメ業界において、世界的に名を挙げ、よく知られるストーリーテラーになるのは誰なのかだと思います。日本における『君の名は。』と『天気の子』の商業的な成功をみれば、新海誠監督はまちがいなくその位置にいるのではないでしょうか。

宮崎駿監督の作る作品は、時代を超えた人間の本質にアプローチしていますが、新海監督の作る作品はもっと今のこの時代のために作られていて、宮崎作品同様のその美しさと独自の作風で、現代の感情を表現していると思います。どちらのアプローチも、映画を通して私達が自分たち自身を理解するために重要なものです。

ー 両監督とも海外でも非常に人気ですしね。拡大する海外の大きな市場のおかげで、日本のアニメ作品の人気が急騰していますが、何がこの成長に拍車をかけていると思いますか。

DJ:アメリカに輸入される海外のプロダクトの中でも、日本のアニメは明らかに際立っていて、視覚的に“クール”に訴えるという意味においても、この30年以上有利な立場にきていたと思います。

私たちが日本のアニメを売り出す場合、北米には「アニメが大好き」というファン層がすでに出来上がっているので、彼らに次回作のトレーラーを観てもらうだけで、特に熱く説得する必要もなく「いいじゃん!観るわ!」とのってくれます。これはかなり有利なことです。だからといって、公開前にやるマーケティングなどの様々な仕事をしなくていいわけではないですが、それでもいいスタートが切れます。この数十年の間に、アニメが密かに築き上げた実績のおかげだと思います。

ー この数十年の間に、GKIDSが配給してきたアニメへの関心は変わりましたか。

DJ:ファンコミュニティー自体は実際に変わったのかどうか、正直なところ私には分かりませんが、私達はSNSにおいても着実に成長していて、配給する作品の興行収入は毎年上がっています。作品の質は常に変わらず素晴らしいですが、私達はさらなる成長を目指すことに喜びを感じています。

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ソース: GKIDS

アニメのファン層が、映画業界からかなり注目を浴びているのは、たしかに大きな変化です。劇場や動画配信サービス、大手販売店などでも、他のカテゴリーの人気作品の売上が芳しくないにも関わらず、“アニメ”というカテゴリーは、収益が見込めると気づいています。だからこそ、ファンは自分たちの愛するものをよりサポートするでしょう。私達GKIDSもより注目を集めていますし、多くのチャンスを得ています。素晴らしいことです。私達が何年も訴え続けていたアニメの素晴らしさが認めらているのは、本当に嬉しいことです。

ここに至るまでにたくさんのブレイクスルーがあったわけではありません。『君の名は。』と同様、『ドラゴンボールZ』の驚くべき興行収入もその1つです。新海誠監督の次回作『天気の子』についても、資本作りをしているところです。スタジオ・ジブリのDVDも売れ続けていますし、アニメのコンベンションも毎年成長していて無視できない規模ですからね。

ー では今後10年で、アニメ産業はどう発展すると思いますか。

DJ:いま現在、大手のプロダクションが人材を取り込んでいて、アニメ業界はクリエーター不足を抱えています。新しい動画配給会社やスタジオもかなりの数の新しいアニメ作品づくりに資金を費やしていますが、制作陣を持っていない限り新しい作品を生み出すのは大変です。しかし、この数年で業界も適応して変わっていくでしょう。

かつては、アニメはほとんど現地のビジネスとして運営されていて、海外とのビジネス部分は大きくありませんでした。今後は、現地での市場は年を追うごとに縮小していくと思います。アニメ映画作品やシリーズもののビジネスはますます国際的になり、日本のアニメ・スタジオと海外の投資家が繋がって作品を生み出したり、変化するこの市場に対して新しい手法を作って行くだろうと思います。それはアニメ産業のひとつの発展であり、楽しみでもあります。

ですので、アニメファンになるには今が最高のタイミングだと思いますよ。あらゆる選択肢があって、存分に楽しめるんですから。