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最新技術で制作された2Dアニメーション。Netflix映画『クロース』制作の舞台裏【セルジオ・パブロス監督インタビュー】

今年Netflixで配信され、その高いクオリティーに日本でも特に業界内で注目が高い海外アニメーション作品『クロース(原題:Klaus)』。もうご覧になりましたか?争いの絶えない村にやってきたある郵便配達員の視点で、サンタクロースの誕生秘話を描いた作品です。

この作品、実はものすごい技術的な挑戦が詰まった作品なんです。3DCGが主流の北米アニメーション映画の中で、この作品は2Dで作られています。立体的に見えるリッチなキャラクターや、色や光の加減も全て、主にToon BoomのHarmonyを使った2Dアニメーションで制作されています。手描きアニメーションの原点を追求し、一方で現代の技術を用いてこだわり抜かれたのが本作です。

この作品の監督を務めたのはセルジオ・パブロス氏です。パブロス監督は、本作品以前は『怪盗グルーの月泥棒』で共同製作総指揮を務めていましたが、さらに遡るとウォルト・ディズニー・スタジオ時代の『グーフィー・ムービー / ホリデーは最高(1995)』、『ヘラクレス (1997)』、『ターザン (1999)』『トレジャー・プラネット (2002)』等、数々の歴史的な名作にアニメーターやキャラクター・デザイナーとして参加してきた世界的なクリエイターです。

今回は、そんなセルジオ・パブロス監督にToon Boom本社が行ったインタビューを日本語に翻訳してお届けします。Netflix初のオリジナルアニメ映画を監督したその経験や制作秘話について語っていただきました。

 

『クロース』の制作に影響を与えた、これまでのアニメーション経験

ー 2Dと3Dの両方の経験した今、なぜ2Dアニメーションの技術を使った『クロース』を制作する事になったのでしょうか。

幸運にも、私は長年伝統的なディズニー作品の制作に携わってきました。アニメーション制作では、新しい技術を融合させて進化させようと、作り手がそれぞれの作品で奮闘してきましたし、それとは逆に、進化せずあえてノスタルジックな方向へ戻る事もあります。

こうした中で私は長年、手描きアニメに現代的なやり方を取り入れた手法について考えてきました。しかしその試みを行うためには、2つの基本的な条件がそろう必要がありました。ひとつ目は、その作品の物語を伝えるために、2Dである必要があるということ。もうひとつは、表現上の制限を超えるために、新しい技術を取り入れる必要があるということです。

今回の『クロース』のアイディアが出てきた時、この2つの条件が揃い、今回の手法での制作が可能だと思いました。

ー 脚本、監督、そして制作において、2Dアニメーションの経験はどう影響していますか。

ボディーランゲージや身振りなど、2Dアニメーションがどれだけの事を伝えられるかを学んだのは、特に意義のある事のひとつです。私が脚本を書く際は、セリフ以外に体の細かな動きまで伝える情報は書かないようにしています。

そうすると、アニメーター達は、物語の背景にある膨大な量の意味を、自分たちで読み解かなければいけなくなります。しかし、そうする方が、私はより良い映画が作れると思っているんです。

Klaus Still Children of Smeerensburg

Source: Netflix Animation and The SPA Studios

ー Netflixオリジナルとして初のアニメ映画を制作することに対しては、相当なプレッシャーがあったのではないかと思います。最近は3DCGのアニメ映画が主流となっている中、なぜNetflixは今回この『クロース』の制作にあたって2Dでの制作にゴーサインを出したのだと思いますか。

Netflixを説得したわけではないんですよ、本当に。私たちは2分のコンセプト作品を持って行って、昔ながらのアニメーション手法で新しいものが作れる事を見てもらいましたが、物語の持つ可能性を強調する事に注力しました。Netflixが決断した理由も、技術どうこうよりも、物語自体が決め手になりました。

動画配信サービスと共にアニメーション作品を制作するということ

ー 動画配信サービスがアニメーションに与える影響について、どう見られていますか。

『クロース』を含め、たくさんのアニメーション制作のプロジェクトが動いていますが、そうした作品は、動画配信サービスがなければ、日の目を見ることはなかったでしょう。動画配信サービスは、今後さらにアニメーション作品にビジネスを賭けていくつもりだと思います。それによって私たちは、必然的により幅広いアニメーション作品を目にするようになります。制作者としても、観る側としても、そうした環境には文句のつけようがないですよね。

ー Netflixとの仕事は、他との仕事とどう違いましたか?

制作前に多少やらなければいけない事が多かったです。Netflixの上層部に説明したりもしました。しかし、一度彼らがこのプロジェクトとビジョンにゴーサインを出してくれた後は、私たちは基本的に「映画を作れ」と言われただけです。あとはとにかく本当に自由に制作させてくれました。それは他のスタジオとのプロジェクトではなかった初めての経験でしたね。

Klaus and Margu

Source: Netflix Animation and The SPA Studios

 

ー 『クロース』の制作過程についてはどうでしたか。制作中はどんな日々を送られたのでしょうか。

一言でいうなら「カオス」ですね。二日間まるで変わらないなんて気持ちを味わうのは初めてでした。作品づくりに必要な事を間に合わせるために、駆け回ったり這いずり回ったり。若手スタッフもいたし、私も含め初めての経験をするスタッフが多かったのです。

でも一方で、皆それぞれが、かなり多くの事を学びました。ですので、次の制作では準備万端で臨めると思います。

これからの2Dアニメーションについて

ー アヌシー国際アニメ映画祭では「ただ昔ながらのアニメ制作に戻るだけでなく、さらに前に進まねばならない」とおっしゃっていました。『クロース』のような作品による影響も含め、これからの10年、2Dアニメーション制作はどう変わると思いますか。

そうですね、私がただ望むのは、作品を伝える上で、昔ながらのアニメーション制作は効果的な方法であると、より多くの企業やプロデューサーが再検討することでしょうか。これからの10年を予測できるような確かな位置にはいないので、そう願うだけです。

アニメーション・マガジンでは2Dアニメーションは進化をやめて懐古主義的になりすぎているともおっしゃっていました。『クロース』では空間光学や色彩での進化が見られましたが、2Dアニメーションにおいて、どんな分野が今後変わりうると思われますか。

いろんな進化がただ重複作業をなくすためだったり、人間味を求めない方向に進んでいるのは、もう一度見直すべきだと思います。アーティストが求められる分野では、アーティストが自由に仕事ができるようにする事が重要だと私は思うのです。

「映画制作上に必要だから」とか、「表現の幅を広げるために」とか、あるいは「作品をより語るために」など、状況に応じて技術は進化すべきだと思います。

 

ー 『クロース』のアニメーション制作過程で、Storyboard ProやHarmonyを使う事になったのはなぜでしょうか。また、制作の中でチームの皆さんがソフトの有用性を感じた点はどんな時でしたか?

ソフト間の移行がスムーズなのがとてもよかったです。Toon Boomのソフトのおかげでアニメーターや仕上げのアーティスト達はどんな忙しい状況も乗り越えられました。私たちを支えてくれた素晴らしいパートナーで、高いレベルが求められた『クロース』の制作には本当にかかせないものでした。

ー 新しいチームと『クロース』の制作を経て、予想しなかった変化などありますか。

チーム内のアーティスト達はそれぞれが大きな影響を与える可能性を持っていて、自分たちなりのやり方を持ち合い、互いがそれを共有しあっています。

特に見ていて嬉しかったのは、ベテランのアーティスト達が新人のアーティスト達と経験を共有していたことです。それが徐々に独自のやり方として構築されて、『クロース』作品全体にも影響していると思います。

ー これからの新しい2Dアニメーションの流れに乗って、将来を目指す学生たちに対し、なにかアドバイスをいただけますか。

恐れなくていい、という事でしょうか。CG技術が占めている業界で、昔ながらのアニメーターになるというのは、いいキャリア選択じゃないように思うでしょう。でも、アニメーションというものをしっかり理解し、正しいスキルセットさえ身につければ、常に求められる人材でいられるはずです。

Morgens and Jesper

Source: Netflix Animation and The SPA Studios

『クロース』の制作で使われたToon Boomのソフトは無料体験版がございます。ぜひご利用ください。