Toon Boom日本支社は、Toon Boomのソフトウェアと日本のクリエイターたちの関係にフォーカスしたインタビューシリーズ『Toon Boom Interview Files』の連載をスタートします。第1弾となる今回は、2022年春にTOKYO MX、BS11で放送されたTVアニメ『ヒーラー・ガール』の原案・監督を務めた入江泰浩氏のインタビューをお届けします。 入江氏が、「今作の肝であるミュージカルシーンの実現に大いに役立った」と語るように、彼の制作に欠かせないツールだった絵コンテソフトStoryboard Pro。本記事では『ヒーラー・ガール』の事例からStoryboard Proの可能性についてお聞きしました。 続きを読む »
人気オンライン・コミックがHarmonyでアニメーション化!その監督にインタビュー。
トレーシー・バトラーさんが脚本・作画を行う『Lackadaisy』は、長く続いているオンライン・コミック。アメリカで「漫画のアカデミー賞」とも呼ばれるウィル・アイズナー賞にもノミネートされています。
このシリーズでは、1920年代アメリカ禁酒法時代を背景に、闇酒場『Lackadaisy』を中心にして、擬人化された猫のキャラクターたちが、コメディやサスペンスの要素を含んださまざまな物語を繰り広げます。
バトラーさんはアニメーション監督のフェイブル・シーゲルさんとチームを組み、オンライン上14年間続けてきたこのコミックを、アニメ化することにしました。 このプロジェクトは、クラウドファウンディングサイトのKickstarter上で目標金額をはるかに上回る33万USドル以上の資金を調達することに成功しています。
フェイブルさんは先日、Toon BoomのHarmonyを使って制作した『Lackadaisy』のテスト映像を公開しています。今回は、そのフェイブルさんにToon Boom本社が行ったインタビューを翻訳します。
ー 『Lackadaisy』の共同監督やアニメ制作をやることになったのはなぜですか。
1年くらい前になりますが、去年の春にトレーシーが連絡をしてきたんです。TV局に売り込みするのに、『Lackadaisy』をアニメ化することに興味はあるかって。私たちは長年お互いの仕事を見て知っているので、『Lackadaisy』のアニメ化も私を信頼して声をかけてくれたのだと思います。
私自身も、原作のもつ独特な世界観や美学、ドライなユーモアが大好きなんです。登場人物のキャラクターたちの個性も際立っていて、それぞれの活躍でいろんなドラマやコメディが繰り広げられます。犯罪ミステリーにも興味がありますし、1920年代の歴史的な背景も、私のような歴史オタクにはぴったりの作品です。
実際、TV局に売り込みをしたことで、いいフィードバックも得られました。しかし、この作品には暴力、アルコール、喫煙の描写が含まれるので、通常のホームコメディ枠には合わず、TV局側は投資するには踏み切れませんでした。
わたし達も、去年の秋の時点から、まずは自分たちで短編映画を作ってアニメ化の価値を証明しようと考え始めました。それでKickstarterのクラウドファウンディングで資金集めを開始したんです。
ー 最近、テストアニメーション映像の一部が公開されましたが、この映像内に出てくるキャラクター、ロッキーのアニメーション化の作業はいかがでしたか。
この映像にはいろんな背景があって、ロッキーのキャラクターの研究や、これから観る人を物語に導くいろんな謎を投影しています。
このショットの中の彼は演技がかっていて、すごくよく動くんですが、彼が奇抜なアクションをすればするほど、その分、他のシーンでの彼の動きの制約がより強調されるんです。
またロッキーは猫ではありますが、実際にはかなり人間的なので、人間のように動いていて、しっぽの動きも、行動を強調したり、ジェスチャーや感情に少し重みを加える程度に抑えています。実際の猫のように動くのは、ロッキーのキャラクターには合いません。彼はとてもうるさくって、騒々しくて、どこか不器用な性格です。彼の演技はチャールズ・チャップリンが演じたザ・トランプというキャラクターから多く引用しているんですよ。
とはいえ、ロッキーのようなキャラクター性や、担当声優のマイケルの声の演技に合わせて、アニメーションをただ過剰に動かすのはちょっと単純すぎる思うんです。だから、このショットの実制作は、何度もやり直してポーズの一部やフレームを削除したりして試行錯誤しています。頭がどれだけ動いてるかとか、体がどれだけ伸びたり縮んたりしているかとか、もう本当に大騒ぎしながらね。より経験のあるアニメーターの友人に連絡してアドバイスをもらったり、それをロッキーの動きにどう反映できるかなど、いろいろ試したショットです。
ー これまで様々な作品でHarmonyを使用してきた経験があるかと思いますが、このソフトについて他のアニメーター達に紹介することはありますか。
Harmonyは最初の見た目は難しそうに見えますが、思っているよりずっと簡単だと思います。他のアニメーションソフトを使ったことがあるなら、Toon Boomのソフトは、習得するのにそんなに大変ではないはずです。ほとんどの場合、問題になってくるのがショートカットキーを覚えることだと思います。私の場合は、それも自分の作業スタイルに合わせてカスタマイズしています。
また、他のアニメーションソフトウェアに比べて、Toon Boomのソフトウェアは、伝統的なアニメーション制作を念頭に置いて設計されていると思います。ビットマップ形式のツールを使用して描画ができるし、高いレベルでカスタマイズができるブラシエンジンもあります。ビットマップブラシは、ベクターブラシよりも柔らかい表現ができるので、その手法が使えるのは素晴らしいことです。
私の場合、一番気に入っている機能はメッシュツールです。微妙な調整が必要な場合、フレームを分割して移動したいセクションを投げ縄で囲みます。メッシュをアクティブにすることで、何も描画し直さなくても、描いたラインを引き出すことができます。しかも、特別なリギングの機能を学ばなくてもできるんです。
それから、私の場合はノードシステムもよく使っています。最初は見た目が難しそうなので怖いでしょうが、思っているよりずっと簡単です。基本的には、合成の構造を見た目で分かりやすくした図みたいなものでしょうか。プログラミングのコードを学ぶより、はるかに簡単だと思います。
ー 『Lackadaisy』のような長期連載のオンライン・コミック作品をアニメ化にするにあたり、課題はありますか。
この作品は10年以上続いていて、熱心なファンがとても多いんです。だからアニメ化に対する期待はとても大きいですね。
このシリーズについては作品自体も裏側についてもよく知っているつもりでいたんですが、私も気づかなかった細かなことをファン達が取り上げていたりするんです。なので、私もそうした熱心なファン達と同じように、この『Lackadaisy』の生き字引きくらいにならなきゃ!と思っています。みんなをがっかりさせたくないですからね。
またこの作品の背景になる1920年代の雰囲気を掴むために、かなり研究をしなければと思っています。トレーシーは長年この作品を描いていて、この時代についてよく知っているので、懐中電灯が1927年には存在していたかとか、もしあったならどんな形なのかとか、舗装されていない当時の道の上にはどんなものがあったのかとか、そういう事がわかっているんです。
でも、常にトレーシーの頭の中をのぞいてみる事なんてできませんから、自分でそうした知識を持っておかねばなりません。なので、図書館に行っては資料や本を見て、当時のファッショや家具、アールデコのデザインなどなど、いろんな事を勉強しています。
ー 大人が楽しめるアニメーションというジャンルについてですが、この分野はこの十数年でどう変わり、また今後どのように進化していくと思いますか。
私が子供の頃は、大人向けのアニメーションといえばザ・シンプソンズくらいで、それ以外には、シリーズものがいくつかあるかないかくらいでした。だいたい、1〜2シーズンくらいしか続かないシットコム系のコメディのアニメーションだったり、あとは子ども向けに作られているけれど、大人も楽しめる作品だったり。
MTVが実験的にリキッド・テレビ(90年代にMTVで放映されたサブカル系アニメシリーズ)を始めて、やがてアダルト・スイム(2000年から現在にかけて、アメリカで放送されている大人向けの深夜アニメシリーズ)が人気になり定着しました。『ハーベイ・バードマン法律事務所(原題:Harvey Birdman, Attorney at Law)』は私のお気に入りのアニメーションの一つでもあります。それでもまだ、一般的に人気なのはザ・シンプソンズシリーズくらいで、大人向けのそれ以外のアニメ作品は、どちらかというとサブカルチャー的な人気にとどまっていると思います。
こういった初期の大人向けアニメーションと時代をともにして育った私のような世代が、いま業界を牽引し始めています。業界の成長に伴う痛みみたいなものも、あちこちで見られますが、子供向けのエンタメのコンテンツでさえも、より深い内容の素材を探している状態です。大人向けのアニメーションコンテンツも、誠実にキャラクターの深堀りをやらねばならなりません。
新しい動きはすでに始まっていると思います。日本のアニメーションがその幅広さでよく知られていますが、これまで子ども向けとして留まっていた欧米のアニメーション産業が、新しいジャンルやテーマ、ビジュアルの多様性を、日本並みのレベルまで広げていくのも時間の問題だと思っています。きっと後から振り返ると、爆発的に成長したように見えるかもしれませんが、こうした動きは長年にかけてすでに業界の中で築かれていた事です。実際、業界内の私たちも、そのチャンスをずっと待っていたと思いますし、その準備も十分できていると思いますね。
ー あなたにとって手描きの2Dアニメーションの一番の楽しさはなんですか。
どこか完璧じゃなかったり、意図せずに型が崩れたりすることでしょうね。パペット・アニメーションもそういう部分はありますが、パペットの場合、人形を分解して、新しい顔やパーツを加えたり、自然な動きをつけたりするには時間がかかってしまいます。でも、キャラクターを手描きする時にはそういう作業は必要ありません。アイディアをそのまま描いて、それを採用するかどうか検討して進めていくので、試行錯誤する時間は少なくてすみます。
テクノロジーは、制作を効率的にして生産性をあげますが、ソフトウェアのツールやメニューを掘り下げて自動化をしてしまいすぎるのは、あまり好きではないんです。そうする事で、私自身がキャラクターの演技作りへの興味を失ってしまったり、そういった機能をなにか使ってキャラクターを作らなきゃいけないようなプレッシャーを持ってしまうんですよね。
だから、あまりソフトウェアを使いすぎない方が気が散らなくて、私の場合はパフォーマンスがよくなったりします。
ー 『Lackadaisy』のようなプロジェクトに取り組んでみたいと思っている学生にアドバイスはありますか。
とにかくまずはやってみて!といいたいですね。友達を集めて、それぞれが何ができるかを持ち寄って、お互いのスキルの足りない部分を補いながら、1〜5分の短いものでいいので何か取り組んでみるといいと思います。
アニメーション作りはコラボレーション作業です。自分で全てを行うことはできますが、そうするとすごく時間がかかりるし、苦労も大きいです。他人と一緒に協力して短時間で何かを実現するというのは、1人でやるよりも簡単だし、ずっと楽しいことです。誰もが同じようなレベルのスキルを持っているわけではないと思いますが、それぞれが違った知識や技術を持ち寄ってくれます。また、こういったチームワークで作り上げた信頼やネットワークが、将来に実際に仕事をする際にきっと役立つと思います。
もちろん、完璧なものはできないかもしれません。でも、今活躍しているアニメーター達だって、誰もがだいたい3作目くらいまでは完璧なものなんてできなかったと思うんです。
大事なのは、あなた自身がそのプロジェクトを通して何かを得ること、次の挑戦に進むために備えられるようになることです。映像のクリエイターになる唯一の方法は、実際に映像を作ることですから。
始めるのに、必ずしも高性能なソフトウェアを使う必要はありません。ソフトウェアは作業を高いレベルで効率化させてくれますし、数人がかりのプロジェクトでは他のチームと連携して作業するのにとても役立ちます。
でも、ただアニメーション作りを始めたいと思った時は、人形をカメラの前でポーズさせてコマ撮りしたり、フリップブックでパラパラ漫画を作るのでもいいんです。テクノロジーよりもまず、あなたの創造性が何より重要です。ソフトウェアの使い方を極めるよりもまずは、創造するスキルを構築すること。その後に、ソフトウェアにあなたの創造性を取り込めばいいのです。だから、ソフトウェアを使いこなせないからと自分を制限せずに、まず始めてみてください。