Toon Boom日本支社は、Toon Boomのソフトウェアと日本のクリエイターたちの関係にフォーカスしたインタビューシリーズ『Toon Boom Interview Files』の連載をスタートします。第1弾となる今回は、2022年春にTOKYO MX、BS11で放送されたTVアニメ『ヒーラー・ガール』の原案・監督を務めた入江泰浩氏のインタビューをお届けします。 入江氏が、「今作の肝であるミュージカルシーンの実現に大いに役立った」と語るように、彼の制作に欠かせないツールだった絵コンテソフトStoryboard Pro。本記事では『ヒーラー・ガール』の事例からStoryboard Proの可能性についてお聞きしました。 続きを読む »
Storyboard Proのおかげで作業効率が格段に上がった【ダイヤのA actII 製作陣インタビュー】
2019年4月よりテレビシリーズ3期を迎えたテレビアニメ『ダイヤのA actII』。今回はテレビシリーズの制作現場でToon Boomのデジタル絵コンテ作成ツールStoryboard Proが使用されている事例として、3シリーズに亘って監督を務める増原光幸さん(写真左)と、演出の川野麻美さん(写真右)にインタビューしました。
『Storyboard Pro』を活用することで、大幅な作業時間の短縮とクオリティの担保が実現できたと語るお二方。各作業への時間配分がシビアなテレビシリーズゆえの様々な問題をどのようにクリアできたのか、紙からデジタルへの過渡期ゆえのリアルなお話も含め、詳細にお伺いすることができました。
『ダイヤのA actII』テレビシリーズ第3期目の見どころ
ー まずはテレビアニメとしては第3期目となる最新シリーズ『ダイヤのA actII』の見どころを教えてください。
増原監督:主人公の沢村くん率いる青道高校が甲子園で苦い経験をした後、学年も上がり2年生になったことで部活内でも新しい立場に置かれるところですね。これまでは先輩と同期しかいなかったなか、新たに後輩も加わってきたことで、彼の新しい一面が見えてくると思います。またライバルである降谷くんとの争いもさらに激化し、青道高校内部の話が今まで以上に掘り下げられていきます。
ー 制作にあたって、特に力を入れている点はありますか。
増原監督:細かいところですが、アニメーションの部分で注目してもらいたいのは球種の描写。今期になり沢村くんも新しい球種を使えるようになっていったり、今まで以上に個性豊かなピッチャーが登場しますので、誰がどんな球を投げるのか、というところはきっちり細分化して描写しています。例えば、この投手が投げるスライダーは他とは切れ味が違う!という凄みが、映像として説得力を持っていなくてはいけないので。その辺りが視聴者の方にも伝わるとうれしいですね。
絵コンテ作成の効率アップにStoryboard Proが果たす役割とは
ー (今年から)社内のデジタル化を進める一環でStoryboard Proが導入されたということですが、テレビシリーズの制作現場で実際に使ってみて、感想はいかがですか?
増原監督:Storyboard Proを導入したことで、作業効率が格段に上がったと実感しています。現在、僕と演出の川野は『ダイヤのA actII』の絵コンテに関しては一から、絵を描くところからまるっとStoryboard Proで作業しています。
以前は紙や他のデジタルツールでも制作していたんですが、紙だと出先で作業するには持ち歩かないといけない物が多くて億劫だし、他のデジタルツールは1ページずつを細かく仕上げるのを得意としているものばかりで、絵コンテ編集には不向きでした。
ー 絵コンテ編集に必要な要素とはどういったものなのでしょうか。
増原監督:絵コンテって毎週150ページ、300カットほどの量をさばいていかないといけないので、ラフな絵で軽く一気に仕上げていくことが重要になってきます。その点Storyboard Proだと、大量のカットを描きながら更にタイムライン上でコマを入れ替えてサクサクと編集できるので、イメージ通りの作業ができるんです。
ー 紙で作業していた際は、どのように行なっていたんですか?
増原監督:日本の絵コンテって四コマ漫画のような形になっているので、それが一コマずれたり、間が飛んだりするだけで非常に見づらくなるんです。紙でやってると、どの作業者に対しても正確に伝わるように成形するのがすっごい面倒臭いんですよ。
ー 具体的にはどのようなことでしょうか。
増原監督:例えばカットナンバーを10と書いていたところに追加カットを入れて10A、10B、10Cと書いたり、削除したカットについてはそこの番号が抜けることになるんです。そうするとじゃあ全体を見直そうと思っても番号がバラバラで、今読んでいるものが完成形なのかが分からない。結局、つど情報共有をしなくちゃいけなくなってしまうんです。Storyboard Proを使うと、一通り流れができた後にカットを増減しても自動でカットナンバーを整理してくれるので、総カット数が一発でわかる。弊社の中では、今でも紙ベースで作業する作品もあるんですが、ワンカット増やすと150ページの数字を一から書き直さないといけなくて(笑)。
ー なるほど、毎週150ページの絵コンテとなると個々の作業にかかる時間コストについても、かなり意識しなくてはいけないでしょうね。Storyboard Proを使った作業フローは具体的にどのような流れなのでしょうか。
川野さん:『ダイヤのA actII』のワークフローは、原作の絵のコマをまず最初にスキャニングですべてStoryboard Pro上に流し込むところから始まります。原作のコマを貼り付けて、拡大・縮小したり輪郭を直感的に削ったりと、Storyboard Pro内でシュミレーションしながら簡単に修正できるのが大きな時短に繋がっていますね。この作業をStoryboard Proを使わずにやろうとすると、原作の絵を頑張って一から描くか、原作をコピーしてサイズを合わせて絵を描くことになり、大きく時間を取られてしまいます。また全部のコマを流し込むと同時に尺もざっくりと入れられるので、仮ではありますが、大まかな総カット数と尺が初期段階で分かるというのも、効率アップになっていると思います。
紙ベースで描かれた増原監督のオリジナル絵コンテ。ほぼ全ての情報を制作者が把握し、手書きで書き込んでいかなければならない。
Storyboard Proを使用して描かれた増原監督のオリジナル絵コンテ。カットナンバーの自動整理、尺の自動計算だけでなく、光の当て方、影の浮き出方など色分けで描き込むことができるため、作業時間短縮はもちろん、作業者に対しても情報がより正確に伝わる絵コンテを成形することができる。
ー 尺計算についても、以前は手作業だったんですか?
増原監督:そうですね。尺計算も紙ベースだと本当に手間がかかるんです。例えば紙をデジタルに取り込んで数字を書き直したとしても、数字が書き込まれた画像でしかないので、最終的に電卓を叩いて計算しなくてはいけない。
ー シリーズアニメだと毎週分にその作業が発生するということですよね。
増原監督:映画だと一本の作品に1~2回の計算で済むかもしれないんですが、シリーズアニメはなんせ本数が多いので、大幅な時間ロスに繋がってしまうんです。例えば300カットの尺を1回測るのに1~2時間、しかもそれを演出が数えた後に制作チームがまた数え直すとなると、それだけで3~4時間はかかってしまう。この毎週4時間分のロスが積み重なると相当大きいんです。Storyboard Proだと、尺をいじったら瞬時に自動で再計算してくれる。
それにタイムライン上で動画として見れるので、尺の間がよりリアルにイメージできるのもありがたいです。ストップウォッチ片手に想像で計って紙に記録して、とするよりも正確な時間を算出できるので。まさに絵コンテに特化しているなと感じる点ですね。あとはセリフも入れられるので、そこも尺計算に役立っています。僕の場合はトーキングソフトで作った音声を仮入れしてみて、大体の尺の当たりをつけたりしていますね。
ー 導入にあたってのハードルというのはありましたか?
川野さん:例えばPhotoshopやCLIP STUDIO PAINTといったような従来のアプリケーションやソフトとは勝手が違う部分があるので、どうしても習得するのに一定の時間はかかってしまいました。ただ一旦覚えてしまえば、導入の時間分はすぐに取り戻せるかなという印象です。
増原監督:まだ社内では、紙ベースで絵コンテを描いている人の方が多いのが実情なんです。デジタルのソフトウェアって、関わる人全体が一斉に使用できることで加速度的に便利さが増していくものだと思うので、チーム全員が扱えることが理想なんですが、なかなかまだ難しい。新しいソフトを覚える時って、例えばこれはできるかな?できないかな?あれ~やっぱできないのか、と探している間に何も進まず1時間経った…となってしまうと、なんとなく時間的損失を感じてしまう。
ー 確かに、その感想はすごくリアルですね。
川野さん:初めにそういう時間があっても、一旦覚えてしまえばあっという間にロス分は取り返せるんですけどね。何ができて、何ができないのかというのがもっと分かりやすいと、普及させやすいなとは思います。
ー なるほど、Toon Boomとしても公式サイトにてチュートリアル動画を充実させていっている段階ですが、導入ハードルをなくすためにより丁寧なケアを目指していかなくてはいけないですね。参考になります!
Storyboard Proのライブラリーはシリーズアニメの制作にマストな機能
ー シリーズ物のアニメを制作する上で特にStoryboard Proを使って良かったと思われた点はありますか?
増原監督:これは話数の多いアニメシリーズだからこそだと思いますが、ライブラリーに過去に使ったアートワークのコピーを定型フォーマットとして保存しておけば、似たようなカットを使いたい時に検索して引っ張ってこれるという機能は重宝しています。
ー いわゆるバンクを差し込む際ということですね。
増原監督:例えば「沢村のカットボール」と検索したら過去に使用したカットが出てくる。ビットマップデータだと文字も画像の一部でしかないので、そういう情報検索の仕方はできないんですよ。OCRのソフトで手書き文字をテキストデータ化できるものもありましたけど、丁寧に字を書かないと検索に上がってこないなど、不具合も多くて使えなかったんです。さらにStoryboard Proだとテンプレートが動画になっているカットだったら完璧で、そのまま引用してはめ込むことですぐに尺も分かる。投げる絵ひとつとっても、スッと投げているのか、力強くおりゃ~とためて投げるのかによって、かかる時間が変わってきてしまうので。それを即座に反映できるのは非常にありがたいですね。
ー 同じ作業を紙でおこなうと、どのような工程になるのですか?
増原監督:絵はないので、ボールを投げる沢村の絵を新たに描いて、過去のコンテの中から同じものが出てくる話数とカット番号、尺を調べて記載し原画チームに渡します。3シリーズ目ともなると過去120話とデータも膨大なので、紙で探すとなると実際には諦めてしまうんですよね(笑)。めくってるだけで一日終わっちゃう。Storyboard Proでテンプレートを作成しておけば、この中から選んでくださいと伝えやすいんです。それに同じようなカットでも種類も一気に見れるので、その時の絵の流れの中で、同じアングルにならないようにここはパンで、ここは煽りのカットにしよう、などの選択も容易にできるようになりました。
Storyboard Proのおかげで、絵コンテに入る情報密度が濃くなった
ー 川野さんはStoryboard Proにどのようなメリットを感じていらっしゃいますか。
川野さん:既出の部分以外でいうとサウンドを同期して入れ込めるという点で、CMやPVなど音とのシンクロが重要になってくる映像を作るのにも向いていると思っています。エンディングのコンテをStoryboard Proで作成したのですが、先にデモの曲を入れてから、音そのものを編集したり、音に合わせて絵を作っていけるので、タイミングが取りやすく編集しやすかったですね。
ー 音に合った画面作りはStoryboard Proがまさに得意としているところですね。
川野さん:それとカメラワークをつけてアニメーション化できるというのも他にはない魅力だと感じています。紙だけだと描かれた画面をズームしていくとか、下からパンしていくとかは文字で伝えて、後はそれぞれの想像で補うということになってしまうので。
ー 他にStoryboard Proの機能面でお気に入りの点はありますか。
増原監督:バージョン6からついたマット機能によって、絵の中に入れられる情報がかなり増えました。
例えばこんな感じの絵を、バッター、キャッチャー、審判って書いて、手前のピッチャーはまだ分かりやすいんですけど、奥の方は重なってしまうと見えにくい。これが各レイヤーで輪郭を簡単に塗り分けられるんです。さらにこれをレイヤーアニメーションにしてそれぞれ動かした時に、全員の動きがレイヤーの塗り分けによって伝わりやすくなりました。これが線だけの絵コンテだと、移動した時に要素が被ってしまって動きが伝わらないので、文章で「この時キャッチャーはこう動いていて、審判は右手をあげて左足を前に出しています」と書いて情報を補っていかなければいけない。また、レイヤーにしてあると、例えば複数パターン作っておいて、じゃあ監督にどちらを採用するか任せよう!と判断を仰ぐ、なんてこともしやすい。
加えて、光の当たり方、影のつき方なんかもマット機能を使うことでかなり入れやすくなりましたね。
ー なるほど、絵で見せていただけると非常にわかりやすいです。
増原監督:あとはパースガイドを入れられる機能もありがたいです。追加の絵を描く際にもパース線をガイドラインにしてフリーハンドで簡単に引けるのが助かっています。
ー 細かいところまで、ありがとうございます。では最後にStoryboard Proでここをもっと改善して欲しい、といったご要望があればお聞かせください。
増原監督:テキストでセリフを2カットにまたいで入れた場合に、PDFのエクスポートをすると、インデントがすべて上揃いになってしまって、コントロールができないのがもどかしいな~と思います。場面に合わせて、上揃えと下揃えを使い分けたりできると嬉しいですね。
ー 書く場所によってセリフの捉え方が変わるということでしょうか。
増原監督:絵コンテのどの場所にセリフを書き込むかで、セリフとセリフの間がどれくらいあるのか、それとも連続して喋っているのかを直感的に表現できるんですよね。日本アニメーション特有のことかもしれないんですが、漫画と同じようなイメージで、効果音をカットまたぎにしたり、めちゃくちゃ叫んでいる時に大きな文字で表現する、みたいな書き方が紙ベースの伝統としてあるんですよね。
ー なるほど、文字だけでも視覚的なイメージをつけられるんですね。
増原監督:例えばアニメーターの人が絵コンテを見た時に、でっかくセリフを書いているってことは、このセリフはめちゃくちゃ叫んでいるんだなってことで、口を大きく開けている絵にしなきゃいけないなと理解してくれる。これが伝わらないと、最悪の場合、絵を描き直さなきゃいけない可能性も出てきてしまうんです。
ー 確かに、カットまたぎやフォントサイズに対するお声は他でも頂戴することが多いです。
増原監督:ビジュアルで見て一発でわかるというのは手書きの強みなので、そこもStoryboard Proがデジタルで完全に再現できるようにしてくれると、デジタルを使ってみようという人が増えるんじゃないかなと思います。
ー 貴重なご意見をありがとうございます。いただいたフィードバックを元にこれからもどんどんStoryboard Proを改善していきたいと考えております。本日はありがとうございました!